山岳会にも所属せず、小屋泊もしない私達は、山の中で人と接する機会は然程多くはありませんが、6年間登山をしていると、少なからず人との関わりがあり、時に心温まるエピソードに出会う時があります。
今回は、夏山での特に記憶に残っている「心温まるエピソード」を5つご紹介していきます。
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頭痛薬を貰った時の話
これは「夏の西穂高岳で、激しい頭痛に襲われた時の話」です。
夕方に丸山から夕日を眺めていたのですが、この日は夏としては気温も低く、強い風が吹いていました。
少し長く風に当たりすぎたのか、就寝後、激しい頭痛に見舞われました。
頭の痛みは未だかつて経験したことのない痛みで、
表現するなら、アイスクリーム頭痛が延々と続いているレベルでした。
(こんな時に限り、鎮痛剤を忘れていた)
耐えられる痛みを超えてきたので、迷惑を承知で山荘のスタッフに助けを求める為に西穂山荘の中に入りました。
しかし、時刻は既に22時を回っており、既に消灯時間を過ぎておりスタッフの姿はありませんでした。
途方に暮れていた時、トイレの為に部屋から出てこられた男性が目に入ったので、迷惑を承知でその登山者に声をかけました。
ぼく:「すみません、頭痛薬をお持ちでしょうか?」
男性:「あっありますよ」
男性はトイレをそっちのけで部屋に戻り、最後の1錠を快く譲って下さいました。
頂いた鎮痛剤を飲むと解くして痛みも収まり、眠りにつく事が出来ました。
「私は多くの人で賑わう小屋が苦手なこと」
「大自然を近くで感じたい」
という理由からテント泊をしていますが、この時ばかりは「人の親切」に助けられました。
翌朝、昨晩の頭痛も治まり、無事に西穂高岳の山頂に立つことができましたが、昨晩の男性のお陰である事は言うまでもありません。
道迷いした僕達を待っていてくれた登山パーティー
これは、登山を始めた頃「大峰山脈の八経ヶ岳」で道迷いをした時の話です。
弥山小屋で妻と二人で写真を取り合っていると、
「写真撮りましょうか?」と、女性パーティーの方が声をかけてくれました。
その後、その女性パーティーとは下山の途中まで一緒でした。
私達が漆黒の道迷いから無事に復帰し、登山口が目に入る距離までくると、
登山口を塞ぐかのようにエンジンを掛けた一台の車が止まっていました。
「あの車 何?」
道迷いから復帰してやっと落ち着いた私達の心拍は、再度高くなりました。
警戒しながら登山口に着くと、車の窓が開き、車の中から人が顔を出し、
「あぁ〜、無事に降りてきたんだね?
私達の後ろを歩いていたはずなのに、急に姿が見えなくなったけど、他にルートなんて無いはずだから心配で待っていた。
もうバスはないけど、車はある?」
登山口で止まっていたのは、弥山小屋で写真を撮ってくれた女性パーティーでした。
私達が道迷いをしていた時刻と、その後ゆっくり下山した時刻などを考慮すると、恐らくその女性パーティーは下山してから40分近く待ってくれていたのでしょう。
何度も何度もお礼を言って女性パーティーとは別れました。
女性パーティーのお陰で、不安と緊張ではち切れそうだった心臓が緩み、無事に帰路に着く事ができました。
▼道迷いした時の詳しい話はこちら
満杯のテント場で詰めてくれた人
北アルプスの鷲羽岳に行った時、途中の双六小屋でテントを張る予定でしたが、
双六小屋のテント場に到着すると既に8割以上が埋まっており、張る場所が殆ど残っていませんでした。
どこに張ろうかと場所を探していると、
「ここどうですか?私が詰めたら張れますよね?」
声を掛けてくれたのは、既にテントを張り終えて、夕食の準備に取り掛かろうとしている人だった。
「いえいえ、そんな」と一度はお断りをしたが、
「構いませんよ、他はもう空いていないでしょう?」とテントから荷物を出して、テントの移動を始めて下さったので、お言葉に甘えてその場所に張らせていただきました。
混雑したテント場では「譲り合いの精神」が基本なので、まだ張る前なら互いに詰めあって張るのが通例となりますが、
既にテントを張り終えて夕食まで始めていれば、なかなか腰を上げるのは難しいでしょう。
"感謝"でしかありません。
頑張る親子
槍ヶ岳の飛騨沢ルートを訪れた際に出会った父と子の「親子登山」の話。
その時は、初めての夏の北アルプスとして槍ヶ岳に来ており、ビギナーズラックもあり槍平小屋までは順調に進んできていたが、徐々にペースダウンとなり、「最終水場」を過ぎた辺りから疲労困憊になり、槍平小屋に引き返すか真剣に悩んでいた。
ちょうどその時、近くで小学生3~4年生くらいの男の子とその父親が休憩をしていたが、
どうやら、子供が疲れ果てているようで、
父親が「どうする?戻ろうか?」と、子供と話し合っているようだった。
男の子は、暫く考えた後に「行く」と頷いたのだ。
私達も休憩をしながら、ふとその親子のやり取りを見入ってしまっていた。
疲労困憊の中でも「続行」の判断をしたから"偉い"という訳ではないが、大人である私たちも元気を貰い奮い立たされる思いになった。
男の子は、父親に厳しく叱咤激励をされた訳でも、ヨシヨシと煽てられた訳でもなく、進退の判断を自分自身で下しているようだった。
私が見たのは、ほんの一時の出来事だが、父と子が山の中で良好な関係を築いているのだろうと感じられ、とても微笑ましい気持ちにさせられた出来事であった。
長い縦走の終わりの再会
2020年の夏に、西穂高岳から槍ヶ岳まで「槍穂高完全縦走」を行なった時の話です。
1日目、新穂高ロープウェイから西穂山荘までの移動中に、"テント泊のソロの男性"の方が私達を追い抜いていかれ、私達と同じく西穂山荘でテントを張られていました。
軽く挨拶を交わしましたが、それ以上に特に言葉を交わす訳ではなく、翌日それぞれ出発していきました。
その後、ジャンダルム、奥穂、大キレットと超えていき、3日後「槍ヶ岳の山頂」で「ソロの男性」の方と再会を果たしました。
互いの健闘を称えい
「終わりましたね」
ソロの方のその一言にこれまでの4日間の苦労や達成感など、様々な想いが込められているのを感じました。
実際に行動を共にした訳でもなければ、言葉を多く交わした訳でもありません。
同じ志を持った登山者との「一時の出会い」
私はこの山の「一期一会」がとても嬉しい瞬間です。
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まとめ
私は妻と2人で山に登ることが殆どで、山の中で感動することと言えば、自然の素晴らしさや自分達の成長などが大半を占めており、夏山よりも冬山の方が好きだったりもします。
しかし、開かれた世界となる夏山では、多かれ少なかれ人との関わりがあり、その中で時に「心温まるエピソード」に出会う時があります。
こういったものに出会えるのも、夏山の魅力の一つなのだと思います。
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