夏は賑わいを見せていた山の中も、冬となって雪が降り積もる季節となると登山者の姿はほとんど見かけなくなります。
今回は、自身のこれまでの登山の経験から、「雪山登山」の注意点を6つご紹介していきます。
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体力がものを言う世界
一番最初に言えることは、雪山登山は体力がものを言う世界であるという事です。
これは私自身も本格的な雪山登山を始めて一番思い知らされた事でした。
雪山登山というと、アイゼン・ピッケルワークや、ロープワークなどの技術面に意識が行きがちですが、実際にはそうではありません。
勿論、最低限の技術を備えている事は大前提で、挑む山行レベルよっては高いアイゼンワークが求められることもあります。
しかし、それらは体力を有している事が前提条件となってきます。
雪山においては"難所"に到着するまでに、雪深い斜面を延々と登り、時にはラッセルを強いられることもあり、難所に到着してからも、技術を発揮・維持するには常に体力が要求されるのです。
そして、雪山登山では「アイゼン、ピッケル、ワカン(スノーシュー)、ショベル」などの雪山特有の装備が必要となり、幕営を伴う山行の場合、シュラフは冬季用となり、必要なガス缶(燃料)の数も増えていきます。
このように装備の重量は夏山に比べて非常に重たくなります。
ザックの重量だけではなく、「冬季用の冬靴+アイゼン」は足への負担も大きく、ハードシェルパンツは夏のウェアほどの伸縮性はなく、疲労感は溜まりやすくなります。
また、次の項目でも触れますが、雪山は日照時間が短く、天候の急変も頻発するので、夏山以上に迅速な行動が求められます。
このように、あらゆる面で体力ありきの世界となりますので、十分に理解しておかなければいけません。
寒い
冬なので寒いのは当然の事ですが、雪の降り積もる山の中は滅茶苦茶寒いです。
降り積もった雪が、次の春(場所によっては夏)になるまで解けない事を思うと、どれだけ寒いかは想像がつくのではないでしょうか。
標高の低い山でも1日中氷点下は当たり前で、標高の高い山では-20度も珍しくありません。
(冷凍庫が-18度ほどなので、冷凍庫の中で行動したり就寝したりしているという事になります。)
これだけ寒いとあらゆる物が凍ってしまいます。
- パンやチョコバー等の行動食も固く凍り付きます。
- 飲み水も対策をしなければ、ガチガチに凍り付いて飲むことが出来ません。
- 燃料となるガスも出力が低下して弱火になります。
- 靴の中の汗が凍って足の指と指がくっ付いてしまいます。
寒いだけなら、暖かい服を着込めば済む話ですが、そうではないから難しいのです。
例え-20度でも重たいザックを背負って、急な斜面を登っていれば身体は熱を発して汗をかいてしまいますが、この汗が最も厄介なのです。
汗は汗冷えを起こし、低体温症のリスクを高めてしまいます。
汗をかかない為にレイヤリングや歩行スピードの調整など、常に考える事が多くなります。
そして、極度の低温下では思考能力も低下してしまうので、集中力の欠如により事故を起こさないように十分に警戒しなければいけません。
行動可能な時間が短い
当然ですが、冬の日照時間は夏に比べて非常に短くなります。
槍ヶ岳を参考に、夏と冬の日照時間の違いを見てみましょう。
▼槍ヶ岳
夏至:日出時刻 4:20 日没時刻 19:22
冬至:日出時刻 6:46 日没時刻 16:50
※日照時刻は夏に比べて最大で約5時間も短くなります。
このように、冬山では技術的・体力的に夏よりも過酷になるにも関わらず、行動可能な時間は逆に短くなります。
極寒となる雪山においても、太陽が照っている間はそれなりに気温も安定しますが、日没時刻が過ぎて太陽が沈むと気温は一気に下がります。
また、雪山では日が照っていれば良いという訳でもなく、雪面に太陽が照り付けると雪質が緩み歩きにくくなったり、最悪の場合は雪崩を引き起こす場合があります。
その為、雪崩の危険個所を通過する場合は、気温が低く雪が固く締まっている間に通過することが求められます。
しかし、昼間に緩んだ雪は夜間の間に固く締まり、時にアイスバーンと化し非常に危険な状態となるので、この点についても十分に注意しなければいけません。
このように、雪山登山において安全に行動できる時間というのは非常に限られており、入念なスケジュール管理が求められます。
判断力
登山は「自分で考える」というアクティビティですが、雪山ではより一層の判断力が求められます。
積雪により道標は埋もれており地形も大きくことなるので、晴天時に置いてもルートファインディング力が求められますが、天候が荒れている場合は冷静な判断力が必須となります。
天候の急変は夏山の比ではなく、荒れ具合も夏とは次元が違います。
雪山において悪天候に捕まった場合、相当な経験と装備、予備日の設定などが無い場合、非常に厳しいものとなります。
私の様な一般登山者における最善の選択は「悪天候に捕まらないこと」であり、天気予報を入念にチェックし、山中においても天気の変化を常に意識し、撤退時刻を定めるなど十分な計画性が求められます。
また、先程の「日照時間の短さ」の所でも触れましたが、雪山では時刻により雪面のコンディションは目まぐるしく変化する為、ルートの選定や通過する時刻など、様々な局面で"判断力"が求められます。
自然の脅威が夏とは別物
夏山においても、落石や沢の増水など多くの自然の脅威がありますが、雪の積もる冬山では別次元の厳しさが広がっています。
▼雪山での危険な要素
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雪崩(死に直結する)
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ホワイトアウト(死亡事故を誘発する)
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ブリザード(死亡事故を誘発する)
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低体温症(死亡事故を誘発する)
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ドカ雪(行動不能)
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滑落(死に直結する)
雪山では命の危険に直結するレベルの危険性がそこら中に広がっています。
雪山はこの厳しさから人(登山者)の姿も少なく、山域によっては自分以外誰もいないという事も珍しくなく、緊急時の救助活動も容易なものではありません。
この「閉塞感」「隔絶感」に打ち勝ち、緊急時に置いても冷静は判断を下せる強い精神力と、それを実行に移せる強靭な肉体が求められます。
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装備品はしっかりと専用の装備を揃えよう
本格的な雪山登山を志すのであれば、専用の雪山登山の装備を揃えなければいけません。
1月〜2月の厳冬期は勿論ですが、11月の初冬や4〜5月の残雪期も雪山増備が必要となります。
レインウェアの代用や、チェーンスパイクの誤った運用などは論外です。
▼装備不足で起こりうる事故
【雪の積もった雪面をチェーンスパイク+ストックで下りた場合】
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雪面への食い込みが弱くスリップ、ピッケルが無いので止められずにそのまま滑落。
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岩や凍った雪面の上を通過した際に、チェーンスパイクが外れて紛失して、身動きが取れなくなる。
【レインウェアをハードシェルとして代用した場合】
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ベンチレーションが無く、汗の排出が出来ずに汗冷えを起こす。
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素材が柔らかく耐風性・耐寒性が低く、先程の汗冷えも相まって、強風が吹きつけた時に一気に低体温症を引き起こす。
【避難小屋での宿泊を前提としていた場合】
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避難小屋での宿泊を前提としていたのでテントは勿論、ショベルも持参していなかったが、想像以上の豪雪に避難小屋の扉が埋もれており掘り出せずに路頭に迷う。
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ショベルは保有していたので埋もれた扉は掘り出せたが、扉がガチガチに凍り付いており開ける事が出来ずに路頭に迷う。
雪山装備は高価なものが多く、簡単に購入できるものではないのも事実です。
しかし、装備不足は重大な事故を誘発する危険性が高いので、必ず正しい装備を揃えなければいけません。
また、登山の装備品は勿論の事ですが、アプローチに自家用車を使用する場合は、スタッドレスタイヤに変更し、必要に応じてタイヤチェーンを携行するなど、車の備えも十分に行っておかなければいけません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
雪山登山を行う場合、危険性を十分に理解した上で、適切な装備、正しい知識を持って挑まなければいけません。
また、標高の低い山の場合、気が緩みがちですが、冬の山には標高を問わず大なり小なり必ず危険な要素がありますので、「低山だから...」と安易な気持ちで入山してはいけません。
そして、独学で登山を行っている場合は特に、自身の知識と技術のアップデートを怠らず、より一層の研鑽の姿勢が求められます。
さて、ここまで雪山登山の危険性についてお話してきましたが、それらを大きく超える程の素晴らしい世界が広がっているのも事実です。
十分な知識を装備を揃えて、安全登山を十分に考慮した上で、雪山登山を始めてみてはいかがでしょうか。