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【雪上訓練】これをやっておけ!「いざという時の為の練習」

雪を纏った山々はとても美しく素晴らし物がありますが、それだけにとても厳しい世界でもあります。

「雪上訓練」という言葉を聞いたこともあると思います。

今回は雪山登山を志すうえで、これだけはやっておいた方が良い雪上訓練をご紹介します。

【雪上訓練】これをやっておけ!「いざという時の為の練習」

雪洞を掘ってみる

雪洞は人が入れるサイズの穴を掘って、その中で就寝したり休憩したりする為のもので、雪山特有の技術となります。

雪洞は宿泊時以外にも、暴風雪から身を守るなどの緊急時にも非常に有効な手段となるので、是非「雪洞」を掘る技術を習得しておくようにしましょう。

 

雪上訓練 雪洞

雪洞を掘る作業は、想像以上に大変です。

「入口は小さく、中は広く」「天井は凹凸がないように滑らかに整える」と文字で書けば単純ですが、これが実際にやると案外難しく、イメージ通りにはなかなか出来ません。

また雪洞を掘るのに2時間以上時間が掛かったり、掘っている間みウェアがびしょ濡れになるという事もあります。

 

慣れれば早く上手に作ることができるようになりますが、取り敢えずは経験として身につけておきましょう。

 

簡易雪洞でもOK

雪洞

雪洞というと人が入って横になれる比較的大きなものを想像しがちですが、それだけが雪洞ではありません。

ほんの数十センチ掘り下げて、人が座れるサイズの雪穴を掘り、そこに座ってツェルトで入口を塞ぐという簡易雪洞」でも、緊急時のビバークでは十分有効となります。

 

標高の高い山か豪雪地帯でなければ本格的な雪洞は掘ることは出来ませんが、簡易雪洞であればある程度の積雪量があれば掘ることが出来ます。

更に積雪が少ない場合は、スノーマウントでOK

雪洞の代替「スノーマウント」の造り方

詳しくはこちらで紹介しています

ビバーク対策「スノーマウント」の造り方。雪洞が掘れない場面で活躍!

 

 

アイゼントレーニング

堂満岳中央稜 2023年1月02662

雪上訓練というと「滑落停止訓練」を想像される方が多いと思いますが、

どちらかと言うと、滑落しない為のアイゼントレーニングの方が重要です。

  • 急斜面の登攀~下降
  • トラバース
  • クライムダウン
  • 岩と雪のMIX帯の通過

など雪山では様々なシチュエーションが登場するので、どのような状況下でも対応できるような、確かなピッケル・アイゼンワークを習得しておかなければいけません。

 

▼アイゼントレーニングの流れ

【ステップ】低山などの雪面での基本的なアイゼンワークの習得

堂満岳中央稜 2023年1月02662

低山などの優しい環境で、歩幅や刃(爪)の効かせ方など、アイゼンやピッケルの基本的な使い方を完全にマスターしましょう。

 

【ステップ2】クライミングゲレンデでのアイゼントレーニング

堂満岳中央稜 2023年1月02662

クライミングゲレンデでアイゼンを履いた状態で岩場を登り、岩の上をアイゼンで歩行する際の感覚を掴みましょう。

※必ずアイゼントレーニングの場として有名な場所で行うようにしましょう。通常のクライミング用の岩場をアイゼンの刃で傷つける事とはNG行為となります。

 

【ステップ3】初級のバリエーションルートでの演習

堂満岳中央稜 2023年1月02662

基本的な使い方をマスターしたら、"超"初級のバリエーションルートでの演習登山を行い、自身のレベルを確認しましょう。

 

 

雪崩対策

2,000mを超えるような高山や、豪雪地帯での雪山登山を行う場合、雪崩への対策は必須となります。

(※厳密には雪のある所では等しく雪崩の危険性があります。)

ビーコン・プローブ・ショベルなどのアバランチギアは必須装備ですが、日頃から練習を繰り返し緊急時でも冷静に使いこなす技術を習得していなければ意味がありません。

 

標高の高い山や豪雪地帯でなければ、「実際の雪崩を想定した数メートル下の対象物を掘り当てる」といった本格的な「訓練」は難しいですが、

1,000m級の低山でも「雪が比較的多い斜面を練習場所に選び、周りから雪を集めてきて練習場所の雪を増やす」ことで、一時的に積雪量を数メートルまで嵩増しをすることで、本格的練習が可能。

 

埋没体験も大事

これは埋没者、捜索者の両方において必要な体験となります。

埋没者:埋没時の雰囲気を少しだけでも体感する事が出来る。

捜索者:プロービング時の感触を味わっておく事が出来る。

非常に重要な体験ではありますが、安全対策を設け、埋没量や埋没時間は十分な余裕を持って行うようにしましょう。

 

私が実際に使っているビーコン

 

アイゼンの脱着練習

「皆さん、アイゼンをスムーズに装着することが出来ますでしょうか?」

これは意外と見落としがちな訓練ですが、重要なポイントとなります。

  1. 手袋を嵌めた状態でアイゼンを素早く装着出来る事。
    →アイゼンの装着に手間取ると遅延に繋がります。
  2. イゼンを緩みなく装着出来ること。
    →バンドの緩みは事故を誘発します。

何度か装着する経験を積むとそれなりに早く出来るようになるとは思いますが、大切なのは「手袋を嵌めた状態でスムーズに装着できるか」ということです。

素手であればなんと事のないアイゼンの装着も、手袋を装着した状態だと途端に難しくなります。

 

 

ついつい素手でアイゼン装着をしてしまいがちですが、標高の高い山での素手の露出は非常に危険です。

日頃から面倒くさがらずに、何度も練習を繰り返しておきましょう。

 

 

滑落 初動停止

厳冬期 奥穂高岳(涸沢岳西尾根)2022年1月

滑落停止訓練は誰もが想像する「The雪上訓練」といったところだと思います。

しかし、本当に危険な斜面でもしも滑落してしまった場合、「滑落停止」というのは粗不可能だと言えます。

 

では、何が重要かと言えば、やはり最初から滑落しない為の「アイゼンワーク」となってきます。

とはいえ、万が一の時に備える為に、初動停止訓練というのも行うようにしましょう。

滑った瞬間に止める!

これが大切です。滑り出してしまってから止めるのは不可能な場合がありますが、勢いが付く直前であれば止めることが出来る場合があります。

  • 前向き
  • 後ろ向き
  • 反対向き

など、様々な方向から行い、どんな角度でも冷静に止まれるようにしておきましょう。

 

▼ポイント

滑落停止訓練をより本格的に行う場合は、ある程度の角度のある斜面を踏み固め、その上をソリ」を使って滑り勢いがついた所で雪面に飛び出して「滑落停止」を行うと良いでしょう。

 

 

ラッセルトレーニング

「ラッセルで雪を描き分けて道を作っていく。」これが本来の雪山登山の姿ですが、

人気のルートの場合、多くの登山者が訪れていて、既にトレースが明瞭ということも珍しくありません。

その為、意図的に人の少ないルートを選んだり、平日に山に向かったりしない限り、ラッセルをする機会は無かったりします。

 

とはいえ、いつ自分が先頭に立ってラッセルをすることになるかは分かりません。

ラッセルは見ている以上に、いざやってみると過酷なものです。日頃からラッセルする機会をつくって身体を慣らしておきましょう。

ラッセルについてはこちらの記事で詳しく紹介しています。

【雪山登山の醍醐味】今年の冬はラッセルをしてみよう

 

 

悪天候の体験

2022.12.24 寒波襲来の比良山系 武奈ヶ岳

「安全な範囲で危険な事を体験しておく」というのは登山をする上でとても大切な事です。

※夏で言えば、ビバークトレーニングや、カモシカ山行などと同じ

雪山登山と一言に行っても、晴天と荒天では状況は全く違います。

  • 3,000mの高山でも晴天微風の好天であればとても暖かく過ごせますが、
  • 1,000mの低山でも暴風雪の荒天であれば停滞温床の危険が高まります。

予想額の荒天に見舞われた時、対処法を知っているかどうかが命運を分けることがあります。

そして一番重要なのは、

「知識として知っている事」と「身体で体験している事」は、似て非なるものだという事です。

ちょっとした事でも大変です。

  • 休憩時にザックの雨蓋を開けて水筒や行動食を取り出していたら、雪がザックの中に舞い込んだ。
  • ゴーグルを嵌めようと思ったら、雪が内側に入り込んでしまい、取り除こうとグローブで拭いたら更に雪が付着してしまったので諦めてそのまま装着したが視界が非常に悪い

休憩もゴーグルの装着も、晴天時であれば誰でも失敗なく出来る作業のはずですが、風雪が吹き荒れていると、失敗すれば命取りにすらなりうるのです。

 

雪山はいつ天気が崩れるか分かりません。

勿論、精度の高い天気予報を入手し、晴天が約束された日にしか山に行かなければ大きな問題はありませんが、実際にはそうでない場合の方が多いでしょう。

仕事の休みの関係で多少であれば無理をすることもあると思います。

宿泊を伴う場合、2日先の予報は変わる可能性は十分にあります。

 

 

2022.12.24 寒波襲来の比良山系 武奈ヶ岳

私は必ず1シーズンに1回~2回は悪天候時の雪山に出掛けます。

とは言え、闇雲に天気の悪い山に行けという事ではありません。
練習の為に身を危険に晒しては本末転倒です。

  1. 夏・冬ともに何度も歩いて地形や山域特有の気象条件を十分に理解していること。
  2. 緊急時の装備を携帯していること。
  3. 明確な撤退基準を決めていること。

などの安全対策を十分に施したうえで入山しなければいけません。

 

 

まとめ

ラッセル GPS

いかがでしたでしょうか。

まだ習得していない技術は必ず習得しておかなければいけません。

そして、既に習得済みの技術でも1年に1回は練習しておき、技術が錆びないように反復練習をしておきましょう。

天候不順でアルプスへの遠征が中止になった際などは、近場の山で雪上訓練に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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