「雪山登山」は夏山とは違い、非常に厳しい環境の中で活動するアクティビィティの為、身に着ける装備品も登山専用の確かな物でなければいけません。
タイトルには「これだけはお金をかけろ「ケチってはいけない基本装備」」としていますが、基本的には全て登山用の装備品を揃えるのは大前提です。ここでは、特に気をつけて購入しなければならない装備品を3つご紹介します。
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【雪山登山】これだけはお金をかけろ「ケチってはいけない基本装備」
その1「グローブ」
雪山登山においてグローブ選びは非常に重要なポイントとなります。
雪山では気温が常に氷点下であることは勿論ですが、標高の高い稜線ではマイナス20度を下回ることも珍しくなく、保温力に優れたグローブが必要となります。
しかし、この様な超低温化の世界においても、行動中は体温が上昇し、手に汗をかく事がありますが、汗は次第に冷えに繋がるので、闇雲に保温力の高いモデルを選べば良いという物でも有りません。手が冷えて使い物にならなくなると、命に直結すると言っても過言ではないので、適切なグローブを選ぶことが非常に重要なポイントとなってきます。
レイヤリングの紹介
雪山登山においてグローブは2~3枚を組み合わせるレイヤリングが基本となります。
最近では以下の3つが主流ではないでしょうか。
- ウールのインナーにペラペラのオーバーグローブの組み合わせ
- 2重式の手袋(1~2層タイプ)
- 防寒テムレスの活用
因みに、私は全てのパターンを試した結果、「ウールのインナーにペラペラのオーバーグローブの組み合わせ」と、「2重式の手袋」の組み合わせを使っています。
▼ウールのインナーにペラペラのオーバーグローブの組み合わせ
この組み合わせ方法が最も王道的と言えるのではないでしょうか。
メリット
このタイプの最大の利点は、2〜3層のレイヤリングを行っているので、山行中の「濡れ」に対応しやすいという点です。
1日の行動の終わりにはインナーは汗で湿っており、一番外のアウターは雪で濡れてしまっています。
このまま放置すると凍りついてしまい翌日使用することが不可能となるので、自身の服の中に入れて温め、就寝時もシュラフの中に入れておくことで、翌日には乾いており再度使用する事が可能となります。
これが全てが1枚生地でできているグローブの場合、1度濡れると乾かす事が非常に困難となります。
日帰りの山行であればグローブが濡れてもそれほど大きな問題はありませんが、「乾きやすさ」は宿泊を伴う山行において、非常に重要なポイントとなってきます。
デメリット
レイヤリングシステムのデメリットといえば、しっくりとくる組み合わせを見つけるのが難しい点にあるでしょう。
特に雪と岩のミックス帯を歩く場合は、グローブの操作性は非常に重要なポイントとなってきます。
・2層とするのか3層とするのか...
・インナーはS・M・Lのどのサイズにするのか...
・どのメーカーと組み合わせを行うのか...
実際に色々なパターンを試着して、見つけていくしかありません。
▼2重式の手袋
この手のグローブは以前はインナーとアウターがセットになった1枚ものが多く乾きにくいという欠点がありましたが、最近のモデルではアウターとインナーが分かれている2層タイプが多くなってきています。
メリット
非常に保温性能の高いモデルが出ており「寒さ」に弱い人にはおすすめで、メーカーによっては対応温度の記載がありイメージが掴みやすくなっています。
デメリット
2層モデルと言っても、「分厚い保温力のあるインナー」と「ペラペラアウター」の2層構造の為、途中のアイゼンの着脱などの際にインナーも外すことを想定すると、1番下には薄手のインナーを追加することが現実的となりますが、すでに分厚いグローブに更に1枚インナーを加えると操作性は少し落ちてしまいます。
防寒テムレスの活用
防寒テムレスは近年爆発的な人気を出しており、山の中でも頻繁に目撃するようになりました。私自身も活用していた時期がありました。
メリット
防寒テムレスの最大のメリットは圧倒的なコストパフォーマンスにあるでしょう。
標高の低い山であれば、防寒テムレスだけをそのまま使用しても問題なく、標高の高い山脈であればウールのインナー手袋との組み合わせで対応できる場合もあります。
実際に私も低山から3,000mの高山まで使用してきましたが、1500円〜2000円という価格を考えると非常にコスパに優れていると言えるでしょう。
デメリット
デメリットとしては、やはり所詮はテムレスという点です。
・紛失防止のゴムバンドなし
・袖口からの雪の侵入を防ぐ絞りなし
など、雪山登山のグローブとしての基本機能がありません。
(黒テムレスには袖口を絞る機能が一応ありますが、実用的ではありません。)
またゴム生地という特性上、どうしても厚みがある為、個人差はありますが岩場やロープの操作面ではやや不安が残ります。
尚、最大の欠点は「一度濡れると乾かない」という点です。
テムレスは基本的に完全防水の為、外部からの水濡れは起こりませんが、その反面内側に一定以上の濡れが起こると乾かす事は容易ではありません。
(※透湿性が売りの商品で実際に蒸れは起こりにくいですが、長時間に渡り大量の汗を排出し続けた場合、透湿量の限界を越えるのか、テムレスの中も汗で濡れてしまいます)
その為、山中で乾かすには、テムレスを完全に裏返して、温める必要がありますが、それでも完全に乾かす事は、通常のウール手袋などに比べて非常に困難となります。
サイズ感について
操作性を重視するならばピッタリとした少し小さめのサイズが良いですが、小さすぎると血流の悪化により冷えを誘発し危険な状態となります。
しかし、大きすぎると操作性が低下し、ピッケルや岩を掴む際に「やりにくい」と感じる場面も出てきてしまいます。
バランスを取った選択が大切ですが、こればかりは自身の経験による「感覚」が重要となるので、初めてのグローブの購入でベストな一組を見つけるのは難しいかもしれません。
失敗を防ぐ為に
少しでも失敗を防ぐ為にも、必ず店頭でピッケルを握ったりしながら試着を繰り返さなければいけません。
▼価格帯について
雪山登山の装備はどれも驚くほど高価な物が多い中、グローブに関してはある程度上限額が決まっています。
【例】私のグローブの場合
パターンA(左)
ブラックダイヤモンド・ミッドウエイトスクリーンタップ
約4,950円
ブラックダイヤモンド・ソロイスト
約15,000円
合計:19,950円
ブラックダイヤモンド ソロイストのレビューはこちら
パターンB(右)
ラックナーグラブ(ウール100%)
約5,280円(税込)
バイレス・シェルオーバーグローブ
5,800(税込)
合計:11,660円
私は上記の通り2種類のグローブの組み合わせで山に登っていますが、どちらも1セットあたり15,000円〜20,000円となります。
予備を兼ねて必ず2組のグローブが必要となりますが、予算は2組で30,000円〜40,000円程用意しておけば、「値段で選べる選択肢が少なくなる」ということはありません。
その2「冬靴」&「アイゼン」
夏山においても靴選びは非常に重要なポイントとなってきますが、雪山用の冬靴は更に慎重に「自身の足に適した靴」を選択しなければいけません。
まずはじめに言っておくと、冬靴とアイゼンは相性が非常に重要であるということです。
どちらも未購入の場合、冬靴を先に購入し、その後、冬靴に適合したアイゼンを購入しなければいけません。
冬靴のポイント
活動予定フィールドに関係なく、前後にコバのある3,000mの稜線に対応した本格的なアルパインブーツがおすすめです。
サイズ感は重要で、サイズが合っていないと靴擦れを起こすのは勿論ですが、サイズが小さいと血流が悪くなり痺れや、最悪の場合凍傷を引き起こすなど、大きな問題へと発展するので靴選びにおいてサイズ感は決して軽んじてはいけないポイントとなります。
冬靴に関しては、グローブとは違い料金の幅が大きく比較的安価なモデルでも50,000円から始まり、高価なモデルだと100,000円に達するものも珍しくありません。
5万程の安価なモデルで十分と思っていても、自分の足に合うものがなかなか見つからず、結局8万円の比較的高価なモデルしかなかったという事も起こり得ます。
ポイント
これから雪山装備を揃えようとしている場合、一番最初に冬靴を購入してから、予算を考えながら残りの装備を購入する方が金銭的に大きな損失がなく済むでしょう。
アイゼンのポイント
アイゼンと靴の相性に関して
冒頭でも触れましたが、アイゼンは冬靴との相性が非常に重要で、相性の悪いアイゼンを装着していると使用中に外れてしまう危険性があります。
12本爪アイゼンの価格としては20,000円〜30,000円程と靴ほどの価格差はありません。
ポイント
在庫状況によっては靴にフィットしたアイゼンを探すのに時間がかかる場合があるので、購入に関しては早めに取り掛かる方が良いでしょう。
爪の数に関して
活動予定フィールドに関係なく、12本爪の本格的なアイゼンの購入がおすすめです。
それ以外の6本爪や10本爪は、対応可能なフィールドが限定的となり、結局数回しか使わないまま買い替える羽目になってしまいます。
装着タイプに関して
装着タイプに関しては、「ワンタッチ式」か「セミワンタッチ式」のいずれかが良いでしょう。
「ハーネス式」タイプは固定力に不安があるので、本格的な雪山登山では避けた方が良いでしょう。
ポイント
「ワンタッチ式」と「セミワンタッチ式」の両方が靴にフィットする場合、「セミワンタッチ式」の方が今後靴が変わった場合、汎用性が高いと言われていますが、次の新しい靴によってはそもそもが合わない可能性もあるので、好みで選んでも良いでしょう。
刃の種類
刃の種類に関してはそれほど悩むことはありませんが、クロモリの縦走タイプが良いでしょう。
クロモリは刃は強固でありながらも材質が比較的柔らかい部類の為、岩場に乗った際にはじかれるという事が起こりにくく、安定性があります。しかし、その分刃の消耗は他と比べると早い傾向にあります。
消耗が早いと言っても、1シーズンに月2~3回の使用で4〜5年は使用可能となります。(個人差あり)
縦爪のアイスクライミング用は、まさにアイスクライミングに適した爪の形状で、氷への食い込みは強いですが、雪面での安定性は縦走用の横爪タイプに軍配が上がります。
私の装備
因みに私は、グリベルのアイゼン(G12)と、スカルパのファントムガイドの組み合わせを使っています。
その3「ハードシェル」&「ハードシェルパンツ」
雪山登山のアウターとして着る「ハードシェル」と「ハードシェルパンツ」は”シェル”という名のとおり、過酷な環境から身を守る大切な装備品の一つとなります。
当然ですが...
本格的な雪山登山(低山含む)において、雨具での代用は論外となります。必ず雪山登山専用のウェアを購入しましよう。
雨具が厳禁の理由としては、耐風性能の低さと、透湿性や発汗能力の低さ、保温力の低さなどが挙げられます。
ハードシェルを選ぶポイント
サイズ感
ハードシェルもサイズ感が非常に重要なウェアとなり、チェックすべきポイントがいくつかあります。
チェックポイント
【ポイント1】全体的なサイズとして防寒着(ダウン)を含む全てのウェアを着た状態でハードシェルを着て、無理のないサイズであること。
【ポイント2】ヘルメットを被った上からフードを被り、動きに無理のない形状であること。
【ポイント3】袖が短すぎないこと(袖が短いとグローブと袖の間に隙間ができて、雪が混入してしまう)
色やその他の機能
その他のチェックすべきポイントはこちら
チェックポイント
- ベンチレーターの有無。
→これが無いと登りの際の汗や熱の排出が出来ずに汗冷えを誘発して非常に危険です。
- 色は視認性の高い明るい色がおすすめ。
→視界不良時や遭難時の視認性は重要です。
- フロントポケットは大口がおすすめ。
→グローブやゴーグルを一時的にしまうことができる。
- ポケットの位置などの工夫がこらしてあるモデルがおすすめ。
→ハーネスとの併用を視野に入れて、干渉しない場所に設定されている物がお勧め。
雪山登山では小物類をウェアから出し入れする場面が意外と多いので、ポケットの配置や形状などは入念にチェックすると満足のいく一着が見つかる。
また、ファスナーが硬い場合、適切な潤滑剤でファスナーの開閉をし易くしておくことも忘れてはいけません。
ハードシェルパンツの選ぶポイント
サイズ感
雪山登山でも岩や木の根を乗り越えるなどの大きな動作をすることがあるので、屈伸運動や足上げなどがストレスなく行える事が理想。
ハードシェルパンツは生地の性質上、大きなストレッチ性はあまり期待できませんが、モデルによってはストレッチ性の高いものもあるので、できるだけ試着をしてからの購入が望ましいです。
僕が使っているのはこちら
色やその他の機能
ポケットの位置が膝上などの低い位置にある場合、物を入れた状態で歩行すると足の負担となるが、位置が高すぎてもザックのウエストベルトやハーネスと干渉して使いずらいので、ポケットの位置などの工夫がこらしてあるモデルがおすすめ。
尚、
「ハードシェルパンツのベンチレーターがフルオープン出来るので、アイゼンを履いた状態で脱ぎ履きができる」
という謳い文句の商品が多いが、そもそもがアイゼンを装着した後にハードシェルパンツを脱ぎ履きするシチュエーションがないので、特にフルオープンである必要はないように思う。あれば良いが、無くても困らない。
価格帯について
価格帯としては国内メーカーのエントリーモデルが上下共に各30,000円ほどからスタートとなり、海外ブランドの高級モデルとなると一着100,000円前後と幅広い。
値段による性能差というよりも、シルエットなどの個人の好みが大きく反映される所なので、サイズ感の問題をクリアしているのであれば好きなものを選んでも問題はない。
しかしながら、マムートなどの海外ブランドは高価格帯のものが多く、アウトレットなどでお得に購入する以外、なかなか手が出せないのが実情である。
ハードシェルかソフトシェルか】
ハードシェルかソフトシェルかに関しては、「ハードシェルは撥水性に強いがアイゼンなどの切り裂きに弱く」、「ソフトシェルは撥水性にはやや不安があるがアイゼンなどの切り裂きに強い」と言われている。
しかし、アイゼンの引っ掛けに関しては、日本の雪山登山においてゲイターの併用が絶対であることと、破れる時はどんな素材でも破れるので、自分自身の経験から独自の考えがない限り、初めの一着はハードシェルを選んでおく方が間違いがないだろう。
まとめ
はじめにも書きましたが、雪山登山では全ての装備を、冬山に特化した専用の登山用品で揃えることは大原則となります。
その上で、今回の3つの装備に関しては「特に慎重に選ぶ」事が重要となっています。
おさらい
グローブのポイント
- レイヤリングが基本で予備を含め最低2組は必須。
- サイズ感が大切なので、繰り返し試着を行う。
- 保温力も大切だが汎用性も大事
冬靴&アイゼンのポイント
- 冬靴とアイゼンは相性が重要
- 冬靴はサイズ感が大切なので、妥協しない
- アイゼンは12本爪がオススメ
ハードシェル&ハードシェルパンツ
- 上下共にサイズ感が大切。大きすぎず小さすぎず
- ポケットの位置なども要チェック
- ストレッチ性の高いモデルは疲労軽減に繋がる
また「今の所1,000m級の低山しか登らないから...」という理由でスペックの低い装備を購入すると、後々ハイスペックなモデルへと買い替えることになりうるという事も念頭においておきましょう。(※私自身がそうでした...)
因みに自身の経験から言うと、厳冬期の北アルプスに対応できるスペックの装備品で、1,000m級の低山を登っても「オーバースペック」だと感じることはありません。
雪山登山は美しくもありながら、非常に危険な場所でもあります。適切な装備を揃えて安全に雪山登山を楽しみましょう。
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