登山者憧れのルートであり、国内最難関ルートの一つ「槍ヶ岳 北鎌尾根」
私は2022年の9月に初めて挑戦し、トラブルにより敗退。翌2023年の7月に無事にリベンジを果たしました。
今回は、「北鎌尾根」に挑戦する上で必要だと思うことを、自身の敗退と成功談を元に考察して行きたいと思います。
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【解説】北鎌尾根を敗退と成功の両方の経験から対策を考える
体力
やっぱり体力。
これはどの解説記事でも言われていることですが、
北鎌尾根=体力と言っても過言ではないくらいに、体力が必須です。
▼標高差がエグい
メジャールートである上高地からのアプローチでも、
- 上高地バスターミナルから水俣乗越まで標高差954m登り、
- そこから北鎌沢出合まで標高差640m降り、
- 北鎌沢出合から北鎌のコルまで標高差630m登り、
- そこから更に険しい岩峰地帯を標高差709m降って槍の山頂へと至る。
累計標高差は、2300mとなります。
▼装備が重い
【幕営装備】北鎌沢出合や北鎌のコルなどの稜線上での幕営が必須(※中房温泉側からの貧乏沢経由を除く)
【水】尾根上に水源はありません。最後の水源である北鎌右俣で多めに汲まなければいけません。
【ロープ】メンバーの力量などによっては必要となるでしょう。
装備は軽量化に努めても10kgにはなるでしょう。
▼コースタイムが長い
1日あたりの行動時間が平均10時間を越えます。
演習的な山行で、自身の体力レベルを確認することが重要で、
これまでの経歴だけではなく、今現在の体力レベルを客観的に知る事が大切だと思いました。
軽量化
体力に相当な自信をお持ちである方を除いて、北鎌尾根に挑戦するにあたり軽量化は避けられません。
ザックが重く大きいと体力を削られるだけではなく、体が振られる危険性が高まるので、ザックを軽量コンパクトに抑える事が必要があります。
既存の装備での軽量化には限界があるので、予算と相談しながら、装備の買い替えも視野に入れましょう。
実際に私も装備の買い替えを行い2022年の初挑戦時と比べて、3キロ程の軽量化を行いました。
装備の紹介はまた後日、別の記事で行います。
但し、それと同じくらい大切なのが体力の向上。
装備の買い替えは物理的な効果もありますが、自身の意識を高める意味が大きいと思います。
実際に北鎌尾根に行った時の装備はこちらの記事で紹介しています。
【解説】槍ヶ岳 北鎌尾根の全装備を紹介「重量と食事内容も紹介」
計画性
「体調管理」「装備の選定」「天候判断」「ルート(地形)の把握」、その他諸々が完璧でないといけません。
例:テントかツェルトか
テントは安心&快適ですが重く体力を削られます。
ツェルトは軽いという圧倒的なメリットがありますが、快適性はテントに比べて劣るというデメリットがあり、経験が浅いとメリットをデメリットが大きく上回ってしまいます。
私はテントとツェルトの間を取った超軽量テントを持っていきました。
使用しているテントに関してはこちらの記事で紹介しています。
【レビュー】超軽量テントfinetrackカミナモノポール2
例:行動食
行動食は何をどれだけの量を持って行くのか。
栄養価や吸収力の違い、自分の身体への相性など、考えることは沢山あります。
水も同じで、何リットル必要なのか。水が無ければ命に関わる事にもなりかねませんが、持てば持つほど重たくなり、結果的に体内の水分を多く消費してしまう原因にもなります。
行動食と水の量についてはこちらの記事で紹介しています。
【登山歴6年】僕の行動食はコレ「夏山~冬山/日帰り~テント泊」
例:天候判断
北鎌尾根は高難易度の岩稜帯の通過となるので、天候判断も非常に重要なポイントとなります。
雨が降れば岩場が滑りやすくなる事は勿論ですが、ガスが湧くとルートファインディングが難しくなります。また稜線上での「雨+風」という組み合わせは夏においても低体温症を引き起こす要因になるので注意しなければいけません。
とはいえ、北鎌尾根の全日程が晴れという周期を掴むことも難しく、どのタイミングでどの程度の雨ならばOKなのかという判断基準を持っておく必要があります。
通常の縦走登山では気にならない程度の「些細な違い」が、北鎌尾根では顕著になって現れるので、
自身の経験から最善の選択が求められます。
ガイドブックやインターネットの山行記録などを情報源にしつつも、自分自身のこれまでの経験と実力を元に、「自分達で達成できるのか」ということを冷静に見極めなければいけないでしょう。
ルートファインディングは本当に大事
大槍の取り付きでミスした自分が偉そうに言えた事ではないが、北鎌=ルーファイ。
これが本当に大事で、難易度、すなわち安全に直結する。
北鎌尾根を歩く場合、尾根通しが一番安全と分かっていても、巻道の踏み跡を見ると、そっちに吸い込まれて行きそうになる。
私も事前に本当に多くの方の山行記録や、プロの方の記述など多くの資料を読ませて頂いた。
その中で印象的だった言葉が2つある
1.北鎌尾根に楽な道はない
これは正にその通りで、岩峰を目の前にした時に、「この岩を登るのか?あっ横に巻道っぽい踏み跡がある。行ってみようか」
となってしまいそうになるが、いやいやちょっと待って下さい。
- 難しそうだけと、登れる岩
- どこに向かっているか分からない不確定な巻道風の踏み跡
どっちを選択すべきかは明白な筈です。
私も本来は直登すべきピークを誤って巻いてしまったり、途中まで行って戻ってきた直登し直したりしたので分かりますが、楽そうな見える巻道よりも、一見難しそうに見える直登の方が断然簡単で安全です。
巻道は始まりは実際に楽ですが、徐々にザレた斜めの急斜面となり、稜線への復帰が困難な場合が多いです。何よりも不確定要素が大きすぎて危険です。
2.北鎌尾根に下りはない
これもよく聞く言葉です。
稜線通しで歩いていれば問題ありませんが、岩峰を巻こうとした場合、一瞬であれば降る事がありますが、長い下りというのはありません。結構降ってるなとなった場合、間違いなくルートミスです。
私自身どこかのピーク(2843~北鎌平の間)で、非常に難儀した所がありました。
岩峰を目の前にして、「これを超えるのか?」トライしてみるものの、結構な難易度に一度立ち戻り増田。
これは巻くのか?と、右を覗き込むと明らかな断崖絶壁、いやいやこっちはないな降りたら死ぬ。
左を覗き込むと、踏み跡っぽいのが下に続いている。
這松沿いに少し降りてみると、途中から小規模な崖となり、そこを降り切りザレたルンゼを登ると稜線に復帰できそうではありました。
「ここを降りるのか?」
一瞬迷いましたが、そこで先ほどの言葉が頭に浮かびました。
いや北鎌尾根に下りはないはず。この時点で数メートルは降っており、明らかなに間違いであると実感しました。
最初の岩峰の前に戻り、もう一度岩に取り付いてみると、やはりこちらが正解でした。確かに少し難易度の高い岩場ではありましたが、不落ち着いてみているとホールドやスタンスはあり十分に登ることができました。
ルートファインディングは、目に入ってくる景色(情報)から最善のルートを導きだすことであり、事前情報を活用するとともに冷静な判断が求められるが、最適な答えを出すには、これまでの経験と、自分がこれまで培ってきた登山の総合力が物を言うところもでもある。
今は便利な時代で、ネット上にはあらゆる情報が広がっています。
使える情報とそうでない情報の見極めが必要な事は大前提として、SNSやブログ、動画など使えるものは全て使って情報収集を行うようにしましょう。
この時に重要なのが、入手した情報をしっかりと「脳内でイメージすること」
どこで、どんな景色があり、どんな場所なのか。
ただ眺めるだけではなく、自分の頭で考えてイメージを膨らませておくことで、当日の為に重要です。
精神力
北鎌尾根には凄まじい圧迫感があります。
水俣乗越を下れば、即圏外になりますし、四方を山に囲まれて、山の中にどっぷりと浸かっている感覚になります。
「無事に生きて帰れるのか」
そんな不安が押し寄せる中、「逃げ出したい」という弱い気持ちに打ち勝って「目の前にあるチャンスを掴む」強い精神力が必要だと思いました。
そして、稜線に上がってしまえば、もう引き返す事はできません。
難易度の高い岩場を目の前にしても、泣きたくなっても進むしかありません。
- 予想外の難易度だった
- 予想外のルートに逸れてしまった
- 予想外の悪天候に見舞われた
- 予想外の時間が掛かってしまった
十分な準備をしてきたつもりでも、想定外は起こります。
そんな時にパニックにならずに冷静に判断する為の、強い精神力が必要です。
撤退する勇気と技術
登っても降りられなければ、生きて帰れません。
前回(2022年秋)に挑戦した際、私達は独標を視界に捉えた所で、トラブル発生により下山してきましたが、あれ以上進んでいれば戻るのも厳しいものとなっていたことでしょう。
「進むのか、戻るのか」判断を迫られた時に、状況に合わせて適切な判断ができなければいけません。
北鎌尾根のほとんどが一方通行ですが、
「万が一の際に、自分達はどうするのか」
出発前は勿論、行動中も、総合的に考えながら進むことが必要だと思いました。
まとめ
自分自身の「敗退と成功」の両方の経験から思ったのが、
北鎌尾根を達成する為に重要なのポイントは、
自身の経歴だけではなく、「北鎌の為にどれだけの準備をして、どれだけ身体を作り上げてきたか」
そして「どれだけの情熱を持って挑めているか」。
そんな数値では測れない部分も重要になってくるではないかと思っています。
十分な経験を積み、今年挑戦しようと計画されている登山者の皆様。
どうか、無事に下りてきて、最高の思い出になることを願っています。