登山の際に現在地を正確且つ素早く知ることができる「GPS」。
そんなGPSはこれまでは、専用の機器にのみ搭載されいた機能でしたが、現在では普段持ち歩いているスマートフォンにもGPS機能はほぼ搭載されており、精密さにおいても専用機器にも匹敵するものとなってきています。
専用機器は数万円するのに対して、スマートフォンは地図アプリを使えば無料で使用する事ができるので、スマホをGPSとして使用している人も多く、「GPS端末は必要ないのではないか?」と思う人も多いと思います。
今回は、スマートフォンをGPSとして使用する際に、気をつけなければいけないポイントを3つご紹介します。
目次
登山でスマホをGPSとして使ってはいけない3つの理由
理由1:スマホは下界との貴重な連絡手段である
これが一番大切な話ですが、「スマートフォンは山と下界を繋ぐ唯一の連絡手段です。」
「何を当たり前の事を言っているんだ」と思われる方もいると思いますが、本当にこの意味を理解していますでしょうか?
近年はGPS機能に限らず、スマートフォンの写真機能の進化も目覚ましく、カメラを持ち歩かずスマホのカメラで写真撮影をしている人も多いと思います。
しかし、スマホを使用すればする程、電池の消耗や、破損の危険性は高まっているということを忘れてはいけません。
スマホは一瞬で壊れます
私はこれまで「落下」と「水没」により、2回スマホ全損の経験があり「スマートフォンがいかに壊れやすいか」ということを痛感しています。
どちらも下界での出来事ですが、防水機能がついていようが、画面に保護フィルムを貼っていようが、壊れる時は一瞬で壊れます。
一番危惧しなければならないのが、GPSを真に必要とする場面は精神的に追い詰められた状態であるということです。
最悪のパターン
道迷いを起こし、日暮れが迫ってきて精神的な焦りが生じる状況で、スマートフォンを片手に、画面と前方確認を交互に繰り返しながら歩いていたら、不注意により転倒し、手に持っていたスマートフォンを地面に落としてしまい、スマートフォンが壊れてしまった。
こうなったら最悪です。
もしも、スマートフォンの紛失や故障を起こした場合、遭難事故を起こしていながら、救助要請ができなくなってしまいます。
夏山ではなく冬山での場合、更に想定されるシチュエーションは厳しいものとなります。
先程の破損も勿論ですが、冬山は気温が低く1,000m級の低山であっても氷点下であることが多く、低温化において随時使用していれば、あっという間に電池を消耗してしまいます。
「スマートフォンの電池が無くなった」というのは粗全ての登山者が一度は経験したことがあると思います。
動作温度
・iPhone16:0度〜35度
・GPSMAP67:-32度〜49度
動作温度は圧倒的に専用端末に軍配が上がります。
モバイルバッテリーで充電できますが、低温化によるバッテリー消費率を甘くみてはいけません。
また、新雪の中に物を落とした場合探し出すのは想像以上に難しい場合があり、リッジなどの急峻な場所で物を落とした場合、回収はほぼ不可能と言えます。
ポイント
「リスク管理をどこまでするのか」
これは各登山者に委ねられる問題ですが、「スマートフォンは山と下界を繋ぐ大切な通信手段」であるということを今一度認識しなければいけません。
理由2:事前の地図のダウンロードを忘れたら使えない
GPS自体は圏外であっても使用できますが、現在地を把握する為の地図情報は予めダウンロードしておかなければいけません。
(※当たり前ですが、Googleマップも使えません。)
最近の山は電波が通じる場所も増えてきており、事前ダウンロードを忘れても対応できる可能性もありますが、谷筋などの道迷いを起こしやすい場所ほど電波が悪いという事を忘れてはいけません。
地図をダウンロードする際は、広域〜詳細など十分な範囲を表示できるようにしておくようにしましょう。
また無料版の場合は保存できるデータ量に制限がある場合が多く、以前ダウンロードした地図情報は消えている場合などもあるので、アプリの利用方法をしっかりと確認し、入山前に地図の表示が可能かどうか必ず確認をするようにしましょう。
理由3:雪山ではスマホの操作は出来ない
これは雪山登山をする場合のみの話になります。
スマートフォンのタッチパネルはグローブを嵌めた状態では操作することが出来ません。
インナーグローブはスマホのタッチパネルに対応したモデルが多く出てきていますが、オーバーグローブに関してはタッチパネルには対応していないものが殆どです。
※タッチペンがあればスマートフォンの操作は可能ですが、ちまちまと操作するのってあまり現実的ではなさそう....
低温化の山中でグローブの脱着を繰り返すことは体温の低下や、グローブの紛失、事故の誘発など、多くの危険を抱える行為なので可能な限り避けなければいけません。
補足
スマホに限らず、雪山での使用を視野に入れる場合、GPS専用機はタッチパネル式ではなく、ボタン式を選なばければいけません。
私はGARMINの「GPS MAP64S」を使用しており、現在の最新モデルは「GPS MAP67」です。価格は定価84,800円~ですが、公式が販売終了した事で、市場価格はプレミア価格がついているのか非常に高値になっています。
補足:GPS機能付きの時計という選択肢もあり
GPSの専用端末は高いというイメージがありますが、いや実際に高いのは事実なんですが、
- GPS専用端末
Garmin GPS MAP67:84,800円~ - スマートフォン
iPhone16:124,800円~
という感じで、最近はスマートフォンの価格がどんどん上がってきており、スマートフォンの方が高くなっています。
スマートフォンは日常生活で必須アイテムで、GPS端末は登山でも絶対に必要という物でもないので、比較対象としては成り立りませんが、山でスマートフォンを壊してしまったら、経済的な損失も大きいですよね。
もしも、登山用の腕時計を購入しようとしているタイミングであれば、「GPS/地図機能」が搭載されているモデルを選ぶという選択肢もありです。
GarminやSUNNTOから時計の画面上で地図が確認できるモデルも展開されており、10万円前後で購入できます。
私もGarminのFenix7を使用しており時計の地図機能で現在地を把握すること事が非常に多いです。
※因みに、Fenix7の動作温度は-20~45度です。
「小さい画面で見ずらくないの?」と思うかもしれませんが、普通に使えます。
行動中は時計の画面で確認して、休憩中などはGPS端末やスマートフォンで改めて確認するという方法で使用しています。
詳しくはこちらの記事で紹介しています。
【レビュー】Garmin Fenix7「登山時計の最上位モデル」
スマートウォッチは多機能な分、故障のリスクもあるので、一長一短ではありますが、選択肢としては十分にありだと思います。
Q&A
操作性・視認性はどちらが使いやすいですか?
操作性
- 素手の場合
→圧倒的にスマートフォンです。直感的な操作で拡大・縮小などがスピーディーに行えます。
専用端末はちまちま操作する感じで、ちょっと面倒です。 - 厚手のグローブをはめている場合
→圧倒的に専用端末です。こちらも専用端末はちまちました操作になりますが、スマートフォンは厚手のグローブは実質的に対応不能でグローブを外したりタッチペンでの操作になりますが、これだと専用端末の操作スピードと変わりません。
また、最近のスマートフォンは薄く大きく、グローブを嵌めているなどの特殊な状況の場合は、スマホは掴みにくいと感じる事が多いです。
視認性
圧倒的にスマートフォンです。
ディスプレイの大きさや画面の解像度が全然違うので、勝負になりません。
・iPhone16
画面サイズ:7.2×15cm
画面解像度:2,556x1,179ピクセル
・GPSMAP67
画面サイズ:3.8 x 6.3cm
画面解像度:240x 400ピクセル
しかし、専用端末は冬季や悪天候時に惜しみなく外に出せるという安心感という付加価値があります。
どちらの方が多機能ですか?
機能面の多さについては専用端末の方が圧倒的に優れています。
専用端末では表示画面を自分好みにカスタマイズすることが出来るので、現在の標高、昇降速度、方角、時刻、日入時刻など登山中に知りたい情報をボタン一つで表示させるようにすることが可能となります。
それ以外にも専用端末には使いきれない程多くの機能が搭載されています。
電波の正確性はどちらが優れていますか?
昔はスマホのGPSの性能は低く、専用端末の方が正確でしたが、最近はスマホの性能も上がっており、専用端末と大差はありません。
実際に私でスマートフォンを専用端末の両方を使用していますが、どちらもほぼ同じです。
比較端末
「GARMIN MAP64S 」
「iPhone8/iPhone10/iPhone13」
耐久性はどちらが優れていますか?
スマートフォンとGPS端末の耐久性のカタログスペックはこんな感じ。
- 防水
iPhone16:IP68(水深6メートルで30分)
GPSMAP67:IPX7(水深1メートルで30分)防水に関しては、iPhoneの方がスペック上も、普段触っている感覚的にも上だと思いますが、沢登りの時に水没させる等がなければ、GPS端末の防水等級IPX7でも問題はありません。
- 防塵
iPhone16:IP68(粉塵レベルすら入らない)
GPSMAP67:記載なし防塵に関しては、GPS端末には公式の記載はなく、端末の形状からも気密性はiPhoneの方が圧倒的に高いでしょう。とはいえ、登山で遭遇する粉塵レベルではどちらも問題はありません。
- 耐衝撃
iPhone16:記載なし
GPSMAP67:MIL-STD-810(落下高度122cm対応)耐衝撃性に関しては、どう考えてもGPS端末の方が上だと言えます。GPS端末を硬い路面に落とした事がないので、落下に対する耐久性はカタログ値でしか計れませんが、普段ハーネスやザックのショルダーベルトに吊り下げて、そこそこ雑に扱っていますが壊れる気配はありません。
iPhoneは保護フィルム+耐衝撃ケースに入れていても、落とした時の破損の有無は確率の問題ですので、期待はできません。※私は約120cmくらいからの高さからiPhoneを落として画面が粉々になりました。
いずれの場合も、登山での落下というのは身長以上の高さからの落下が想定されるので、損傷の有無や程度は落下する環境や確率の問題になってくるので、どちらも期待は出来ないと思います。 - 動作温度
iPhone16:0度〜35度
GPSMAP67:-32度〜49度低温下でのiPhoneの弱さは既にご紹介した通りですが、意外と気を付けないといけないのが上限温度です。夏の直射日光の下でiPhoneを使用し続けると動作不良(強制フリーズ)を起こす事があります。まぁ、そのような環境下でスマートフォンを露出し続けるというのもあまりない話ではありますが、、、。
結論として、登山というアクティビティでの耐久性に関しては、GPS専用端末の方に軍配が上がるでしょう。
そして、GPSが壊れても次はスマホを使えば済みますが、スマホが壊れたら救助要請が出来なくなります。
どんなレベルの登山をやる人が専用端末を持つべきですか?
登山のレベルの線引きは難しく、また道迷いに関しては北アルプスなどの登山道が整備された山域よりも、手入れがあまり行き届いていない低山の方が圧倒的に起こりやすいので、低山ハイキングだから安全とは言い切れません。
無理矢理レベル分け...
- 300m級のハイキング
- 1,000m級の登山
- 3,000m級の縦走登山(夏)
- 1,000m級以上のバリエーションルート
- 3,000m級の雪山登山
仮に超大まかに登山のレベルを1~5段階に分けた場合、5に近づくほど専用端末の携帯が望ましいと言えます。
山行のレベルに関わらず、パーティー登山のリーダーなどは携帯しておくことが理想だとは思います。
GPS端末の電池の持ちはどのくらいですか?
私が使っている「Garmin Map 64s」は単三電池2本となり、一般的なアルカリ電池の場合、夏山でも朝から夕方ま使用していれば電池の殆どを使い切ってしまいます。雪山では気温によっては1日持たない場合もあります。
そこで私はエネループプロ(ニッケル水素電池)を使用しています。大容量電池ということもあり、雪山などでの低温化でも電池切を心配することなく安心して使用することが出来ます。
「Garmin Map 64s」
≪実測値≫
使用電池:エネループプロ(ニッケル水素電池)
計測温度:-12度
駆動時間:13時間
電池残量:75%以上
最新のGPSMAP 67はバッテリータイプになりましたが、駆動時間はカタログ値で180時間となっています。設定により消耗は大きく異なると思うので、実際はこの6割程度だとしても、180時間×60%=108時間ですので、1日12時間行動でも9日間は持つ計算になります。
バッテリーの持続性にに関しては、GPS端末に圧倒的な優位性があります。
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詳しくはこちらの記事で紹介しています。
まとめ
個人的には山に入る場合は、専用のGPS機器の携帯が望ましいと思っていますが、価格的に購入が容易ではないという事も十分に理解しています。
それに専用の機器は画面が小さく操作性に関しても慣れが必要なので、使い勝手としてはスマートフォンに軍杯が上がるでしょう。
そして、何の対策も施さずに山に入るくらいであれば、誰もが使えるスマホのテクノロジーの力を借りることは大いに賛成です。
しかし、その場合は、事前の準備を忘れず、山中での扱いには十分に注意を行い、予備バッテリーの携帯も忘れてはいけません。
メリットとデメリットを正しく理解して、安全に登山を楽しみましょう。