登山の一般的な鉄則はいくつかあります。
- 単独(ソロ)での入山は止めましょう。
- 下山は15時まで
- 真っ暗闇での行動は慎みましょう
これらは非常に理にかなった事であり、安全登山において非常に重要なポイントでもあります。
では、これを破った場合、「山の倫理違反だ!」と攻撃対象になるのでしょうか。
今回は、山の鉄則に関して個人的に思うことをお話していきたいと思います。
【雑談】登山において単独行とパーティーのどちらが安全なのか
ソロ・単独登山について
「単独での入山は良くない」というのは、決まり文句のようになっていますが、実際は多くの方が単独で山に登られています。
結論から言うと、
リスク管理をしっかりと行えるのであれば、単独での入山はアリだと思います。
そもそもが、一緒に山を登る人を見つけると言うのは至難の技です。
世間一般の言葉をただ聞くだけではなく、それぞれの特徴を理解する事が大切です。
パーティー登山は安全なのか?
単独登山と双極をなすのがパーティー登山ですが、ではパーティー登山が必ずしも安全かと言われると、そうでもありません。
メンバー構成、指揮系統、信頼関係など、しっかりとした纏まりのあるパーティーであれば、単独登山よりも圧倒的に安全面において優れていると言えます。
しかし、そうでないのであれば、パーティー登山だから安心とは言い切れません。
極端な話、SNSの寄せ集めや、知人の紹介の集まりなどの、素性も知らない人達の集まりは、集まれば集まるほどリスクは高くなっていくことでしょう。
そこまで極端な事例を除いたとしても、注意したいのが明確なリーダーの居ないグループは危険であるという事です。
例:悪天候で撤退の判断が迫られた場合
明確なリーダーがいる場合
リーダーが各メンバーの状況を確認し、再度の撤退の判断基準を設けた上で、続行を決定。
しかし、更なる天候の悪化により、途中で撤退を決定。
途中、遅れをとるメンバーがいたが、サブリーダーなどが包括的にパーティー全体の様子を見ながら、全員で下山。
明確なリーダーがいない場合
悪天候になってきたが、山頂はあと少しなので、行けるメンバーだけ山頂を目指し、体力的に厳しい者は先に下山を開始。
先に下山を開始した登山者は雨風を凌げる場所で、山頂を目指したメンバーを待っていたが、いつになっても下りてこない。
待っていても体温が下がるだけなので、自分だけ下山を続行。
他のメンバーがどうなっているのかは不明なまま登山口に下りきった。
例:全員が対等であるというのも時に危険
一定以上のレベルを有する登山者達が揃って山に入った場合、明確なリーダーがいない状態で登山が開始される事が多いと思います。
全員が1人前の登山者であったとしても、その中での弱者というものは必ず発生します。
その一人が遅れた時に、どうするのか。
疲労困憊でも、全員が対等だからこそ「待ってくれ」「もう降りたい」とは言えません。
勿論、意見交換が出来る関係性であれば問題はありませんが、そうでない場合、疲労困憊の中、無理をして歩き続ければどこかで歪が生じてしまい、事故へと繋がり兼ねません。
どちらのケースも、何もトラブルが起こらなければ、特に問題はありません。
しかし、想定外の事態が起こった際に、問題点が浮き彫りになってきます。
これらは極端な事例ではありますが、ソロ登山は、良くも悪くも自分一人なので、元気なら山頂に行けばいいし、疲れたなら帰れば良い。
全てを自分の判断で決める事が出来るので、中途半端なパーティー登山よりも安全であるとも言えるでしょう。
ソロ登山に求められること
勿論、ソロ登山における圧倒的な危険性もあります。
当然のことですが、ソロ登山は一人なので、全ての事を自分一人でこなさなければいけません。
低体温症になった時
低体温症は思考能力を低下させる為、無自覚に進行してしまうので、自覚する頃には症状が進行しているという場合があります。
【求められる対応策】
自分自身の体の状況を常に冷静に把握する必要があります。
パニックになった時
人というのは、経験を積んでいても、パニックになってしまう事があります。
2人以上の場合は、残りのメンバーが冷静であれば色々と対応可能ですが、一人の場合、パニックになったら終わりです。
【求められる対応策】
十分な経験を積むと共に、リスク管理を徹底する。
現在地を確認できるGPS端末を携帯する。
怪我をした時
滑落をした場合、高確率で怪我をしてしまいます。
当然ですが、自分で対処しなければいけません。
電波が繋がればよいのですが、怪我をした上、現在地が電波の入らない場所の場合、その場で救助を待つか、自力で電波が入る場所に移動しなければいけません。
【求められる対応策】
日頃から筋力・体力・バランス力の向上に努め、事故を未然に防ぐ
インリーチミニなどの、小型の衛星通信機器の携帯
ココヘリなどの、遭難時の捜索サービスへの加入
ソロ登山は全ての事を自分一人でこなさなければいけない為、登山者として1人前である事が求められます。
しかし、これらは本来すべての登山者が持っていなければならない基本能力の一つです。
この点は忘れてはいけません。
弾丸登山について
通常1泊2日が必要となるようなルートを、24時間以内に走破するようなスタイルを「日帰りロング」と読んでいますが、もう少し批判的な言葉で表現すると、弾丸登山と呼ばれていたりもします。
これは本当にダメなのでしょうか
私は、アリだと思います。
一般的意見
- 深夜の行動は止めて下さい。
- 数時間のみの仮眠など、睡眠が足りていない状態での入山は控えて下さい。
- 15時までには下山を完了する。
などなど、山小屋や諸団体からは色々と啓発の記事が出ていますが、正直来な所、普通に働いている人がこれらの基準をクリアするのは、無理があります。
綺麗事だとは言いませんが、基準を全て満たしていれば、登りたい山には一生登れません。
アリだと言いましたが、それは十分な経験を積み、自身の力量を冷静に把握できるようになった場合であり、
「基本的な登山の経験を十分に積んだ先にあるスタイルの一つである」
ということを忘れてはいけません。
初心者の日帰りロング山行は駄目です。
啓発内容の意味を理解し、十分に対応できる事が大前提となります。
▼深夜の行動は止めて下さい。
理由
動物との遭遇や、視界不良による転倒や滑落の危険性を回避する。
対策
同ルートの通行経験があり、地形や危険箇所を把握している事が大前提。
「熊鈴」や「十分な光量のヘッドライト」など、暗闇の危険性を回避できる装備を身につけていること。
▼数時間のみの仮眠など、睡眠が足りていない状態での入山は控えて下さい。
理由
注意力の欠如による怪我、転倒や滑落の危険性を回避する。
心身の乱れや、高度障害を引き起こす可能性もある。
対策
- 睡眠時間が短いと、当然のことながら100%の力は発揮できないので、だからこそ、常日頃から自身のパフォーマンスを高めておく努力をする。
- 日頃から規則正しい生活を心がけ、体調を万全にしておく。
- 短い睡眠時間でも、パフォーマンスを最大限に発揮できるように自分なりのスタイルを見つける。
▼15時までには下山を完了する。
理由
日没時刻までに数時間の余裕があると、緊急時に落ち着いて対応が出来る。
状況によっては当日中の救助も可能となりますが、日没間近である場合は、ヘリも飛べず、翌朝までビバークが必要となる。
対策
- 同ルートの通行経験があり、地形や危険箇所を把握している事が大前提。
- 「熊鈴」や「十分な光量のヘッドライト」など、暗闇の危険性を回避できる装備を身につけていること。
- 日没までに危険個所を抜けて安全圏に到着する計画を立てる。
まとめ
今回、お話させていただいた内容は、何かのスタイルを断定的に推奨するのではなく、
「自分で考える」事が大切だと言う事です。
万能なスタイルはありません。
パーティー登山は、小回りが効かずスピード面で遅れが出やすいですし、
ソロ登山は緊急時の対応に不安が残ります。
私達のような夫婦での登山は、信頼関係は申し分ありませんが、個人の感情が出やすいという側面があります。
各スタイルの特徴を正しく理解する事が大切です。
「登山は自分で考える」というアクティビティです。
メディアの情報を鵜呑みにするのは良くありませんし、
一般的にダメと言われているからと、そのまま諦める必要もありません。
しかし、SNSやネットで他人の山行記録を見て、「自分も出来る」と勘違いしてしまうのは論外です。
まずは、危険性の低い山で登山の基礎を身につけ、少しずつ行動する範囲を広げていき、自分自身のスタイルを見つけていきましょう。