「厳冬期の西穂」本格的な雪山登山を始めた登山者が抱く志の一つではないでしょうか?
あの険しい岩稜帯の細い稜線に、雪を纏った姿は、美しくもありながら人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しています。
その美しさに魅了され「厳冬期の西穂」を志す登山者に向けて、「自分でも行けるのか」」「どう取り組んで行けばいいのか」など、自身の経験から思うことを紹介していきます。
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【解説】厳冬期の西穂高岳の難易度と挑戦について
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厳冬期の西穂高岳のメリット(人気の理由...)
ロープウェイでアクセスが容易に。
西穂高岳への主なアクセス方法として新穂高ロープウェイがあります。
ロープウェイに乗ると新穂高温泉(標高1090m)から西穂高口(標高2156m)まで一気に上がることが出来るので、アプローチが非常に楽です。
標高差1066mを自分の足で登るとなると結構大変です。このアプローチの良さが西穂高岳の人気の理由の一つと言えます。
ロープウェイから西穂山頂までは夏用の標準コースタイムで片道4時間。健脚者で条件さえ整えば、夏・冬共に日帰りすら達成する者もいるくらいです。
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新穂高ロープウェイは定期メンテナンス等で運休になる事があるので、運航状況は事前にチェックしておきましょう。
西穂山荘の存在で安心感がUP
ロープウェイから1時間程の距離に、西穂山荘が通年営業で営業しているので、小屋泊は勿論のこと、テント泊の登山者にとっても安心です。
西穂高岳や独標には一定以上の技術や経験が必須となりますが、丸山からでも北アルプスの絶景を望む事が出来ます。
また、山荘~丸山間には一定間隔で赤旗が設置されており、悪天候時も安全に小屋まで戻ってくる事が出来るようにされています。
これらの理由からも北アルプスデビューを果たしたい登山者にとってもお勧めです。
また、西穂山荘のFacebookでは最新の山の情報や、連休前等には気象情報等が配信されており、登山の為の確かな情報の入手が行いやすくなっている。
関連リンク
- 西穂山荘ホームページ
西穂山荘の予約方法やイベント情報など全体の案内が記載されています。 - 西穂山荘facebook(やさしい 山のお天気教室)
天気関連の最新情報が配信されています。 - 西穂山荘facebook(人のため 自然のために)
山荘での出来事やイベント情報などの最新情報が配信されています。
「厳冬期 西穂」という格好良さ
ステータス、ネームバリュー、穂高の登竜門、、、etc
人とにとって色々ありますが、それだけの魅力を放っているのは事実です。
それらは決してネームバリューから得られる満足感という事ではなく、穂高の魅力と難しさ、そしてそれを達成する為の努力や過程にドラマがあります。
厳冬期の西穂高岳のデメリット(注意点...)
メリットのおかげで、難易度が下がったと錯覚すること。
ロープウェイと西穂山荘の存在で、難易度が下がっていると錯覚してしまう方が多いのが実情です。
技術不足の登山者が起こした事故も多く、ハイキングの延長で足を延ばす観光客が散見されるなど、これらの問題は近年のSNSの普及も影響しているとは思います。
ロープウェイでアクセスが容易になったとしても、実感が湧かないまま3,000mの稜線に立ってしまいますが、山の厳しさは変わらないという事を忘れてはいけません。
実質、冬季の西穂へのアプローチ方法はロープウェイしかない。
ロープウェイでアクセス出来る事は非常に便利な事ではあるのですが、
注意しなければならないのは「ロープウェイは悪天候時には運休になる」ということです。風速が一定の規定値を超えると運休になり、悪天候時には丸1日運休になるということも多く、登れても降りてこれないということが起こる可能性があります。
その他のアクセス方法は?
ロープウェイ以外にも西穂高岳へと至るルートはありますが、どれも危険性を含んでおり、安易な使用は非常に危険です。
- 「西穂高岳西尾根」
穂高平から西穂山頂にダイレクトに登る冬季バリエーションルート。十分な経験と技術・体力が必須。一般ルートとは別次元の難易度となります。
- 「旧ボッカ道跡」
夏でさえ通行人も殆ど無くルートの整備もされておらず、冬季に関しは一部雪崩の危険性もあります。
- 「上高地側からの登山道」
冬季に利用される登山者も少なく不明瞭なところがある為、経験者以外の利用は推奨されていません。
- 「奥穂高岳からの縦走路」
冬季のこのルートを歩く事が許されるのはエキスパートのみ。私が語るには及びません。
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悪天候時やホワイトアウトの時には容易にルートを失いやすい。
西穂山荘の存在は心強いですが、山荘の存在を充てにしすぎるのも危険です。
西穂山荘から独標までの間にある丸山及びその周辺は、尾根上とは言え広い地形となっており、悪天候はホワイトアウトが発生しやすい地形となっています。
西穂山荘の計らいで、山荘~丸山間は赤旗が設置されており、視界が非常に悪い時であっても、無事に山荘に戻ってこれるようになってはいますが、赤旗は一部欠損しており丸山以降は設置されていない為、油断は禁物です。
また、独標以降の稜線上であってもガスや吹雪によりホワイトアウトが発生する事があります。
また西穂高は基本的には1本の細い稜線となりますが、山頂付近には間違いやすい支尾根があり、特に悪天候時の下山時には誤って下ってしまう危険性があります。
岩稜帯の混ざった稜線とはいえ、ホワイトアウトとなると、ルートファインディングは非常に厳しいものとなり、本来巻くべきピークに誤って上がってしまうと、ルートの修正も困難なものとなる為、厳重な警戒が必要です。
独標直下以降は、細い岩稜帯の稜線が続く
独標直下以降は、雪と岩、時には氷の混ざったミックス帯が山頂まで永遠と続いています。。
また、稜線の上高地側には雪庇が発達することが多く、踏み抜きによる滑落には十分注意しなければならない。
渋滞が発生する場合がある
西穂高岳は1年を通して人気の山で、それは厳冬期においても例外ではありません。
特に独標までを目標地点にされる方が多く、様々なレベルの方が挑戦されている為、人が多く集まる好天時には渋滞が発生する場合があります。
順番待ちが発生するタイミング
▼初心者を連れたパーティーに遭遇した場合
西穂高岳は冬季の穂高への登竜門とされている事から、山岳会やガイド登山など初心者を連れたパーティーも多く見かけます。独標で雪山デビューという人も以外に多く、そのような場合は通過に時間を要する場合があります。
▼ロープウェイの始発組が到着する時間帯
特にロープウェイの始発組が到着する朝の時間帯は、独標への登りと、独標からの下りの登山者が交差する為、一時的順番待ちが発生する事があります。1泊2日の登山計画で初日の内に山頂まで行って2日目は下山のみという計画の場合は注意が必要です。
▼天気が良い日
天気が良い日の西穂高岳は登山者で賑わっています。稜線以前にロープウェイから混んでいる事も多く、始発に乗れないという事も珍しくありません。こんな日は独標以降でも山頂直下も渋滞することも多いです。
冒頭でも述べましたが、西穂高岳には多くの登山者が集まっている為、自分よりも技術が低い登山者も多く見かける事でしょう。時間が迫っている場合などはイライラすることもあると思いますが、無理な追い越しや圧力をかけるという事はせずに、出発時間を早めるなど事前の対応で回避するようにしましょう。
厳冬期の西穂高岳に必要な技術
風・寒さへの対応力
西穂山荘を出発すると、すぐに稜線に上がることになります。
特に、丸山周辺は風の通り道となっており、強風が吹き荒れていることで有名です。
独標以降も好天時を除けば、気温が低く、強風と相まって体感温度がマイナス20度を下回ることも少なくありません。
風・寒さへの対応力が低いと身体が固くなり、そこから恐怖心へと繋がり心身ともに負の連鎖となり非常に危険な状態となります。
技術だけではなく、寒さへの対応力も非常に重要なポイントと言えます。
確かなアイゼン・ピッケルワーク
独標直下以降は、雪と岩、時には氷の混ざったミックス帯が山頂まで永遠と続いています。
岩の上にアイゼンの歯を乗せて立ち上がるような場面も多く、一つのミスが死に直結するような場面も少なくありません。
また山頂直下は時期により軽い雪壁となっており、雪の状態によっては厄介な登下降を強いられることとなります。
雪と岩のミックス帯に対応した確かなアイゼン・ピッケルワークが必要です。
事前に岩場(ゲレンデ)でのアイゼントレーニングを行っておいたりするのも有効的でしょう。
体力
- 丸山周辺の強風
- 独標までの長い登り
- 山頂までのミックス帯の登下降・トラバース・アップダウン
全ての要素が交わると予想以上に体力を奪っていきます。
体力が少なくなってくると、ピッケル・アイゼンワークにも影響を及ぼす要因となります。
そしてスピードダウンは体温の低下を意味し、更には低温化に身を置き続けることになる為、あらゆる面から見て相応の体力が必要となります。
ルートファインディング力
好天時は厳冬期であっても登山者も多くトレースは明瞭で、前後の見える範囲に他の登山者がいるということ珍しくありませんが、真逆の状況に陥るこも十分に考えられます。
稜線とはいえホワイトアウトとなると、ルートファインディングは非常に厳しいものとなります。悪天候時に少しでも対応出来るようにする為には、夏の時期や天気の良い時期に十分に歩き、地形が頭に入っていることが重要となってきます。
予行演習が大事
天気や直近の降雪状況や、トレースの有無などの条件により、山の難易度は大きく変化するので、一概に「○○に登れたから厳冬期の西穂に登れる」ということは言えませんが、一つの目安として紹介してみたいと思います。
厳冬期 南八ヶ岳縦走≪硫黄岳~赤岳≫
総合的な難易度や危険性は西穂高岳の方が上のように感じますが、 硫黄岳~赤岳の稜線に関しても、岩場の登下降や急斜面のトラバース等、「一歩間違えれば命に関わる」という個所も多く、寒さと強風に関しては八ヶ岳も引けを取りません。
このルートを問題なく歩けた場合、次の目標として厳冬期の西穂高岳を視野に入れてもいいかもしれません。
Q&A
ソロで行けますか?、ガイドは必要ですか?
勿論、技量によりますが、ミックス対に対応できる確かなピッケル・アイゼンワークを習得している場合、ガイドなしでも充分にいけるかもしれません。
よく言われる指標ですが、
「独標の登り下りで「怖い」と感じた場合は、先に進まず引き返しましょう。」という言葉があります。
これはその通りで、十分な技術と経験を積んできた場合、独標の登りで怖いと感じる事はありません。(雪の状態による)
ロープによる確保や懸垂を必要とする場所はありますか?
基本的にロープを必要とするような箇所はありません。
但し誤ったピークに登ってしまった場合など、イレギュラーが発生した場合などは無いと進退窮まる可能性も否定出来ません。
しかし、明確な支点というのは非常に少ない為、支点構築の知識と経験がなければ対応出来ない可能性が高いです。
日帰りは可能ですか?
好天時に健脚者は厳冬期も日帰りをする場合もあるようですが、個人的には安全面から厳冬期の日帰りは意識はしないほうがよいでしょう。
まとめ
私も雪山登山を始めたころ、「厳冬期の西穂高岳」を目標に頑張っていた。
厳冬期の西穂高岳には、1月と3月に2回登ったことがある。(3月は暦上厳冬期ではないが)
それまでに、夏に山頂まで2回、残雪期に独標とピラミッドピークまで行き、そして厳冬期の南八ヶ岳縦走を行い、最終的に「厳冬期の西穂高岳」へと挑戦した。
決して「これだけの回数を踏んでからでないといけない。」という訳ではなく、それぞれの山行で自身のレベルを確認し、ステップアップを図ってきた結果となる。
でも結局は行ってみないと、「行けるか行けないか」は分からないものでもあると思う。
恐怖心にばかり囚われていては、一向に行くことはできない。
自分が思うだけの準備をしてきたのであれば、「撤退の判断基準」をしっかり定めた上で、思い切って挑戦してみるといいかもしれない。
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