山のあれこれ 成長の仕方について

【解説】厳冬期の西穂高岳の難易度と挑戦について

2017.04西穂

「厳冬期の西穂」本格的な雪山登山を始めた登山者が抱く志の一つではないでしょうか?

私も実際そうでした。

夏山でも岩稜帯の登竜門のような位置付けの西穂高岳。

あの険しい岩稜帯の細い稜線に、雪を纏った姿は、美しくもありながら、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しています。

その美しさに魅了され、「厳冬期の西穂」を志す登山者に向けて、「自分でも行けるのか。」どう取り組んで行けばいいのか、自身の経験から思うことを紹介していきます。

厳冬期の西穂高岳の難易度・特徴

メリット(人気の理由...)

西穂山荘

通年営業の西穂山荘が心強い

ロープウェイでアクセスが容易に。

ロープウェイに乗ると一気に標高2156mまで上がることが出来るので、アプローチが非常に楽。

ロープウェイから西穂山頂までは夏用の標準コースタイムで片道4時間。健脚者で条件さえ整えば、夏・冬共に日帰りすら達成する者もいるくらいである。

西穂山荘の存在で安心感がUP

ロープウェイから1時間程の距離に、西穂山荘が通年営業で営業しているので、小屋伯は勿論、テント泊の登山者にとっても安心。

また、西穂山荘のFacebookでは最新の山の情報や、連休前等には気象情報等を配信されており、登山の為の確かな情報の入手が行いやすくなっている。

「厳冬期 西穂」という格好良さ

ステータス、ネームバリュー、穂高の登竜門、、、etc

人とにとって色々ありますが、それだけの魅力を放っているのは事実。

 

デメリット(注意点...)

厳冬の西穂丸山

丸山周辺は稜線上といえど広く道を失いかねない

メリットのおかげで、難易度が下がったと錯覚すること。

ロープウェイと西穂山荘の存在で、難易度が下がっていると錯覚してしまうことが多い。

ロープウェイの存在から冬季においても多くの登山者が訪れているが、ロープウェイ以外でのアプローチとしては「西穂高岳西尾根」と「旧ボッカ道跡」、「上高地側」の3種類がある。

しかし「西穂高岳西尾根」は穂高平から西穂山頂にダイレクトに登る冬季バリエーションルートであり、「旧ボッカ道跡」は夏でさえ通行人も殆ど無ければルートの整備もされておらず冬季に関しは一部雪崩の危険性もある。「上高地側からの登山道」に関しも冬季に利用される登山者も少なく不明瞭なところがある為、経験者以外の利用は推奨されていない。

実質、冬季の西穂へのアプローチ方法はロープウェイしかない。

上記の通り、一般登山者のアプローチ方法としてはロープウェイしかない。

そして注意しなければならないのは、「ロープウェイは悪天候時には運休になる」ということだ。風速が一定の規定値を超えると運休になる。悪天候時には丸1日運休になるということも多いので、登れても降りてこれないということも起こりうるのだ。

悪天候時やホワイトアウトの時には容易にルートを失いやすい。

西穂山荘の存在は心強いが、山荘の存在を充てにしすぎるのも危険である。

西穂山荘から独標までの間にある丸山及びその周辺は、尾根上とは言え広い地形となっている。

西穂山荘の計らいで、山荘~丸山間は赤旗が設置されており、視界が非常に悪い時であっても、無事に山荘に戻ってこれるようになってはいるが、丸山以降は設置されていないこと、そして、赤旗も一部欠損していること等もあるので、油断は禁物である。

独標直下以降は、細い岩稜帯の稜線が続く

独標直下以降は、雪と岩、時には氷の混ざったミックス帯が山頂まで永遠と続く。また、稜線の上高地側には雪庇が発達することが多く、踏み抜きによる滑落には十分注意しなければならない。

また西穂高は基本は1本の細い稜線となるが、山頂付近には間違いやすい支尾根があり、特に悪天候時の下山時には誤って踏みこみやすい。

岩稜帯の混ざった稜線とはいえ、ホワイトアウトとなると、ルートファインディングは非常に厳しいものとなる。本来巻くべきピークに誤って上がってしまうと、ルートの修正も困難なものとなる。

 

厳冬期の西穂高岳に必要な技術

風・寒さへの対応力

2017.04西穂独標

独標の先に見える雪煙舞うピラミッドピーク

西穂山荘を出発すると、すぐに稜線に上がることになる。

特に、丸山周辺は風の通り道となっており、強風が吹き荒れていることで有名だ。

独標以降も好天時を除けば、気温が低く、強風と相まって体感温度がマイナス20度を下回ることも少なくない。

風・寒さへの対応力が低いと、身体が固くなり、そこから恐怖心へと繋がり心身ともに負の連鎖となり非常に危険な状態となる。

技術ばかりでなく、寒さへの対応力も非常に重要なポイントとなる。

 

確かなアイゼン・ピッケルワーク

西穂稜線

雪と岩、時には氷の混ざったミックス帯が山頂まで永遠と続く。

独標直下以降は、雪と岩、時には氷の混ざったミックス帯が山頂まで永遠と続く。

岩の上にアイゼンの歯を乗せて立ち上がるような場面も多く、一つのミスが死に直結するような場面も少なくない。

また山頂直下は時期により軽い雪壁となっており、雪の状態によっては厄介な登下降となる。

雪と岩のミックス帯に対応した確かなアイゼン・ピッケルワークが必要となる。

事前に岩場(ゲレンデ)でアイゼントレーニングを行っておいたりするのも、有効的だろう。※近畿においては蓬莱狭や金毘羅山

体力

西穂稜線はアップダウンが続く

西穂稜線はアップダウンが続く

丸山周辺の強風、独標までの長い登り、山頂までのミックス帯の登下降やトラバース、それに加えてのアップダウンが予想以上に体力を奪っていく。

体力が少なくなってくると、自身のピッケル・アイゼンワークにも影響を及ぼす要因となる。そしてスピードダウンは体温の低下を意味し、更には低温化に身を置き続けることとなるので、あらゆる面から見て相応の体力が必要となる。

ルートファインディング力

視界不良の西穂稜線

ホワイトアウト直前の西穂稜線

好天時は厳冬期であっても登山者も多くトレースは明瞭で、前後の見える範囲に他の登山者がいるということもあるが、真逆の状況に陥るこも十分に考えられる。

稜線とはいえホワイトアウトとなると、ルートファインディングは非常に厳しいものとなる。悪天候時に少しでも対応する為には、夏の時期や天気の良い時期に十分に歩き、地形が頭に入っていることが重要となってくる。

予行演習

天気や直近の降雪状況や、トレースの有無などの条件により、山の難易度は大きく変化するので、一概に「○○に登れたから厳冬期の西穂に登れる」ということは言えないが、一つの目安として紹介してみる。

厳冬期 南八ヶ岳縦走≪硫黄岳~赤岳≫

厳冬の南八ヶ岳

厳冬の南八ヶ岳。寒さと風の強さは西穂の稜線にも引けを取らない。

総合的な難易度や危険性は西穂高岳の方が上のように感じるが、 硫黄岳~赤岳の稜線に関しても、岩場の登下降や急斜面のトラバース等、「一歩間違えれば命に関わる」という個所も多く、寒さと強風に関しては八ヶ岳も引けを取らない。

このルートを問題なく歩けた場合、次の目標として厳冬期の西穂を視野に入れてもいいかもしれない。

 

Q&A

ソロで行けるか、ガイドは必要か

勿論、技量によりますが、ミックス対に対応できる確かなピッケル・アイゼンワークを習得している場合、ガイドなしでも充分にいけます。

ロープによる確保や懸垂を要する場所はあるか

基本的にロープを必要とするような箇所はありません。

しかし、但し誤ったピークに登ってしまった場合などイレギュラーが発生した場合などは無いと進退窮まる可能性も否定出来ません。

日帰りは可能か

天候に恵まれ健脚者は厳冬期も日帰りをする場合もあるようですが、個人的には安全面から厳冬期の日帰りは意識はしないほうがよいように思う。

 

まとめ

私も雪山登山を始めたころ、「厳冬期の西穂高岳」を目標に頑張っていた。

厳冬期の西穂高岳には、1月と3月に2回登ったことがある。(3月は暦上厳冬期ではないが)

それまでに、夏に山頂まで2回、残雪期に独標とピラミッドピークまで行き、そして厳冬期の南八ヶ岳縦走を行い、最終的に「厳冬期の西穂高岳」へと挑戦した。

決して「これだけの回数を踏んでからでないといけない。」という訳ではなく、それぞれの山行で自身のレベルを確認し、ステップアップを図ってきた結果となる。

でも結局は行ってみないと、「行けるか行けないか」は分からないものでもあると思う。

恐怖心にばかり囚われていては、一向に行くことはできない。

自分が思うだけの準備をしてきたのであれば、「撤退の判断基準」をしっかり定めた上で、思い切って挑戦してみるといいかもしれない。

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