岩と雪の殿堂「剱岳」
多くの登山者の憧れである剱岳ですが、冬季期間の12月1日~翌年5月15日までは20日前までに登山届を提出し、事前の許可を得なければいけません。
5月16日以降は許可制がなくなる為、これから登ろうと計画されている方も多いのではないでしょうか?
今回は、自身の経験から、残雪期の剱岳に登る為に必要な事について解説していきたいと思います。
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【解説】残雪期の剱岳に登る為に必要なこと「技術・装備・体力」
技術と装備
ゴールデンウイークなど5月前後の剱岳はまだまだ雪山です。
原則的に、真冬と同じ装備が必要で、十分な雪山経験が必要となります。
セルフチェックとして、今一度、確認をしていきましょう。
アイゼンピッケルワーク
「岩と雪の殿堂」と謳われる積雪期の剱岳では、
- 雪壁
- 岩と雪のMIX
- 柔雪
- 氷結
- クラスト
- トラバース
- 新雪
などなど、
雪という文字が付く状況で想定される全ての状況に対応できるアイゼンピッケルワークが必要となります。
また、残雪期の特徴として、雪のある所と、雪がなく岩が露出している所が交互に現れる事があるので、岩の上をアイゼンで歩く事にも慣れていなければいけません。
基礎レベルが十分に身に付いている事が必要と言えます。
※目安となる登山経験に関しては、状況による為一概には言えませんが、冬季の西穂高岳などのアルプス岩稜帯一般ルートを単独で問題なく歩ける事が、技術面での最低条件とされると良いかもしれません。
ストックとチェーンスパイクはNG
今後、融雪が進むと夏道の露出が多くなってきますが、残雪期の雪は固く斜度もキツイ為、アイゼンとピッケルは引き続き必須装備となります。
急登が続く剱岳ではストックの有意性も活かしたいところではありますが、稜線にでる前にはピッケルへと変更し、アイゼンを装着しましょう。
また、チェーンスパイクでは固い雪面に対応することが出来ず、事故を誘発するので絶対に止めましょう。
ロープワーク
実際に運用するかどうかは、その時の状況やメンバーの力量などにより異なりますが、ロープはやはり必須と言えるでしょう。
実際の雪山やアルパインルートでの懸垂下降の経験が求められます。
ロープの長さに関しては、積極的な運用ではなく、懸垂下降及び危険箇所の後続の確保のみという事で50mロープ1本のみで行きました。
11月の剱岳では30mロープで対応出来ましたが、5月の剱岳ではやはり最低50mロープが望ましと感じました。
▼残置について
これは全般的に言えることですが、残置物は信用しないというのが鉄則です。
- 24時間365日、紫外線や雨風に晒されている。
- 登山者が使用した回数だけ残置ロープには負担が掛かっている。
- 残置設置者がどのようなロープを使用しているかは不明。
これらの理由から、残存ロープが一体どの程度摩耗が進んでいて、いつ千切れるかは分かりません。
本来の耐久値が切れている事は言うまもないでしょう。
これらの鉄則を理解した上で、先人の方に感謝しつつ使わせて頂くものになります。
また、雪の量により残置の利用可否は分かれるので、支点の構築への備えなども必要となります。
ウェア
ゴールデンウイークなどの5月前後の残雪期の特徴として、晴天時ば真夏並みの陽気となっても、朝晩は非常に冷え込むという点にあります。
その為、初冬~厳冬期などよりもレイヤリングに気をつかう事となります。
GW頃までは真冬と同等のウェアで登る事が多いですが、今後、季節が進むと昼間の暑さが増してくるので、昼の間は半袖で登られる方も多いとは思います。
しかし、風が出た場合や日陰では気温が低下するなど、寒暖差が激しいのでミドルレイヤーで適宜調整するようにしましょう。
また、好天時には、半袖で行動される方も多いとは思いますが、紫外線を多量に浴びる事により紫外線疲労を引き起こす事もあります。
この季節はまだ暑さへの耐性が出来ていない人が多いと思いますので注意が必要です。
個人的にはこんな時ほど、ドライレイヤーが真価を発揮すると思っているので、着用をおすすめします。
公式サイトはこちらhttps://www.millet.jp/drynamic/mesh/
また当然の事ですが、サングラスは必須です。雪目への警戒は当然の事ですが、紫外線を目に浴び続けると疲労の蓄積や、眩しいからと目を細めにしていると眠気を誘発する原因にもなるので、サングラスを嵌めましょう。
メモ書き
残雪期は融雪と凍結を繰り返した結果、雪が非常に硬くなっている事があります。
私がGWの剱岳に行った際も、早月小屋の周辺の雪は非常に硬く、ブレードの鋭いショベルでなければ弾かれてしまいました。
小屋前等での設営であれば、地面が凸凹でも問題ありませんが、これが稜線上などのでの緊急ビバークであった場合は、雪洞をショベルのみで掘るのは非常に困難であったことと思います。
スノーソーもモデルよっては非常に軽量なモデルもあるので、必須装備ではありませんが、余裕があれば装備の候補に加えるのもよいかもしれません。
雪崩対策 アバランチギア
残雪期も必ずアバランチギアを携帯しましょう。
残雪期の剱岳周辺はまだまだ雪崩の危険性があります。
ビーコン、プローブ、ショベルのアバランチギアを全て揃えるには、モデルにもよりますが10万円近くかかる事もあります。
アバランチギアは非常に高額ではありますが、あるかないかで文字通り生死を分ける事になります。
・あれば、助かるかもしれません。
・なければ、100%助かりません。
正常性バイアスに惑わされずに、正しい知識を持って入山しましょう。
剱岳に登るというのはそういうこです。
体力
一般登山者が剱岳へと至るルートとしては、早月尾根(馬場島 起点)と、別山尾根(室堂 起点)の2つがありますが、
別山尾根が、室堂からの登りが累計1,089mあり、
早月尾根は、馬場島から登り累計2,260mとなっています。
早月尾根に関しては、北アルプス三大急登に数えられる程で、それなりにインパクトのある標高差となっているので気合が必要です。
また、馬場島側及び室堂側のどちらから登るにしても、上部では難所の連続となります。
周知の事実ですが、事故は登りよりも下りで多く発生しているので、技術を安定して発揮する為にもしっかりとした体力を有していなければいけません。
自分自身の過去の山行履歴を振り返り、同等以上の行動時間の際に体力度合いがどの程度であったのかを目安に考えましょう。
残雪期の時期には、一旦冬山本番が終わり、暫く山から足が遠のいている方が多いのではないでしょうか。
本番の実施前に出来るだけ山に行き、身体を慣らしておいた方がよいでしょう。
行動食と水分摂取を忘れずに
技術・体力を最大限に発揮する為には、行動食や水分を適切に摂取することが大切です。
雪山とは言え、標高の高い所では水分を失いやすく、本来であれば十分な栄養補給が必要となります。
しかし、難所の連続となると水分や行動食の摂取のタイミングを逃しがちですが、ポイントポイントで適宜摂取するように心掛けましょう。
また、私が行った時には1人あたり1.8Lを稜線上に持って行きましたが足りない印象でした。今後の急激に気温が上がる事があるので、水分は大目に携帯するようにしましょう。
最後は情熱・熱き想い
精神論という事ではありませんが、「山にかける熱い想い」
これが勝敗を分けるポイントにも成り得ることがあります。
十分な経験も積んできて準備も万端、満を持して夢の頂きへと挑戦するも、予想を上回る困難な局面に遭遇して、
「もういい、帰りたい」と
心が折れそうになる事があると思います。
そんな時に自分を奮い立たせてくれるのが、山への想いなのではないかと感じています。
結局の所、熱い想いがあれば日々の研鑽にも力が入るので、理にかなった結果という事ではあるのですが、当日もやっぱり気持ちが大切だと感じる事が多々あります。
入山許可(12/1~翌5/15)
富山県登山届出条例により、剱岳を含む一帯の地域に12月1日から翌年5月15日までの間に入山する場合、予定日の20日以上前に登山届を提出し、入山の許可を取得しなければいけません。
画像引用元:富山県/富山県登山届出条例に基づく登山届の提出について
登山届には、記入しなければならない項目も多く、記入内容によっては許可が下りない場合や、計画の変更を求められる場合がありますので、時間に余裕を持って準備に取り掛かりましょう。
また、当該期間中に虚偽の申告や許可なく入山するなどの行為は絶対に止めましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今後、季節が進み、雪解けが進めば進むほど、装備の選定にも悩むポイントが多くなってくることでしょう。
その時々に合わせて、適切な装備を選ぶというのは、難しいポイントでもありますが、雪山登山の醍醐味でもあります。
深い雪に閉ざされていた剱岳の頂きも少しずつ門戸が開かれつつあります。
十分な経験と、適切な装備で挑戦してみはいかがでしょうか。