皆さん「懸垂下降」をご存知でしょうか?
懸垂下降は、危険箇所をロープで安全に下降する為の技術ですが、ロープワークということで、どこか遠い世界の技術だと思っている方も多いのではないでしょうか?
今回は、懸垂下降の必要性と、注意点についてお話ししていきたいと思います。
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目次
【安全確保技術】「懸垂下降」の必要性と注意点について / 山岳ロープワーク
懸垂下降とは
懸垂下降とは、ロープを使った下降技術の一つで、急峻な斜面や岩場を安全に下降することができます。
懸垂下降を習得すべき理由
進退極まる場面でも対応できる
岩稜登山や雪山登山など、本格的な登山を始めていると、いつ「身体極まる」局面に遭遇するか分かりません。
「絶対降れないような急斜面でも、人は案外登れてしまいます。
その為、気が付かずにそのまま登ってしまい、間違ったルートだと気がついた時に、身体極まる状況に陥ります。」
ロープがあれば、安全に下ることが出来ますが、
ロープが無ければ、下降は相当厳しいものとなるでしょう。
「岩稜登山」「沢登り」「雪山登山」など、一般登山道から外れたルートに身を置く場合、ロープ1本で守れる命があるということを念頭において欲しいと思います。
安全策があるから、前に進める
2022年5月に残雪の残る南岳西尾根に挑戦した際、西尾根の下部は雪壁と化していました。
登りながら「ここを下るのは厳しいだろうと」と分かっていましたが、「懸垂下降で安全に降りる事ができる」と判断した為、そのまま前に進みました。
もしも、難ルートに挑戦した時に、
・天気も万全
・体調も良好
でも下降のことを考えると厳しそうだから、撤退するしかない。
そうなると、勿体無くないでしょうか。
それ以外にも、行きは元気ハツラツでも、ちょっとしたコンディションの変化で、下山が厳しいものになるということも起こります。
「安全策」が一つあるだけで、安心して前に進む事ができます。
▼備考
最近は、UL装備のソロ登山者が、冬季を含めたバリエーションルートを日帰りで走破されている姿を多く見かけます。
確かに山の中において「軽さは正義」で、軽ければ軽いほどバランスも崩しにくく、難所も安全に通過する事ができるでしょう。
使う可能性が非常に低い「お守り」的なロープが、装備の選択肢から外されることは納得できますが、
緊急時に差が出るソロ登山者や、ビバーク時に差が出る日帰り登山者こそ、最低限のセルフレスキューの装備を持つべきではないかと思います。
懸垂下降の注意点
ここまで、懸垂下降の利点をお伝えしてきましたが、懸垂下降は便利な反面、非常に危険な側面を持ち合わせているという事もお伝えしていきたいと思います。
手順を誤ると、一瞬で大事故に繋がる
懸垂下降は安全に下降する為の技術ですが、一歩間違えば大事故に繋がる側面も持ち合わせています。
実際にクライミング中の死亡事故ワースト1位と言われているので、運用については注意しなければいけません。
支点が崩壊する
下降中にロープの末端からスッポ抜ける
準備中にバランスを崩して落下
これらは懸垂下降で起こりやすい事故の一例ですが、全て、一瞬で大事故へと繋がってしまいます。
実戦での運用は想像以上に難しい
▼支点の確保&構築が難しい
クライミングゲレンデではなく、実際の登山の中での懸垂下降を行う場合、意外と苦労するのが「支点」の確保です。
有名なルートの場合、懸垂の支点の"残置"がある事が多いですが、
そうでない場合は、自分で「木」や「岩」を利用して支点と見つけ出さなければいけません。
・捨て縄を掛けられる岩がない
・ボロい死んだ木しかない
・懸垂3ピッチの続ける場合、1回目は良い支点が見つかっても、2回目以降良い支点が見当たらない
など、実際の登山で懸垂を行う場合、支点を確保するのに苦労する事があります。
▼トラブルがつきもの
実際の登山で懸垂を行う場合、色々なトラブルが起こることがあります。
ロープが木に絡まったり、
末端が地面についておらず、登り返したり、
雪山で懸垂中、足元の雪渓が崩壊してバランスを崩したり、
トラブルが起こっても、パニックにならずに冷静に対処しなければいけません。
懸垂下降を運用する上での、大原則
▼ロープ・ギアを絶対に落とさない
当然の事ですが、ロープやギアを絶対に落としてはいけません。
不注意で必要装備を落下させてしまうと、選択肢が極端に狭まってしまいます。
ギアの取り回しは冷静に確実に行わなければいけません。
▼どんな時も基本に忠実に
懸垂下降の事故の要因の大部分はヒューマンエラーにあると言われています。
・必ずセルフビレイを取る
・支点の強度の確認
・バックアップは必ず設ける
・システムの指差し確認
本番中の懸垂下降はどこか"焦り"があったり、何ピッチも繰り返し懸垂を行っていたりなど、その時の状況で、ついつい基本を蔑ろにしてしまう事がありますが、これが事故の原因となります。
どんな状況でも、基本には忠実でいなければいけません。
▼日頃から練習を怠らない
懸垂下降は緊急時に使用する技術でもあるので、だからこそ、迅速且つ確実に行えるように、日頃から練習を繰り返しておかなければいけません。
また、前述の通り、不測の事態には降った後、途中から登かえす事も必要となるので、「登り返し法」も習得しておかければいけません。
まとめ&結論
懸垂下降は、習得すれば、「登山者の安全」と「登山の可能性」の両方を広げてくれる、非常に大切な登山技術となります。
しかし、正しい知識で運用しなければ一瞬で大事故へと発展してしまう危険性も秘めているのも事実です。
まず初めは独学ではなく、講習会などプロの指導者から学習し、その後、安全な場所で練習を繰り返し行い、確実な技術へと繋げていきましょう。
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