2024年のGWは2年前のやり残しであった「南岳西尾根」に行ってきました。
この時期は既に賞味期限切れで、標高の低い所は雪が無く藪との戦いとなりましたが、前回は巻いてしまったデルタ状岩壁も超える事ができ、2024年シーズンの締め括りとなりました。
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【山行記録】厳冬期奥穂高岳(涸沢岳西尾根)/ 2024年2月23日〜25日
ルート&タイム
2024年05月03日(金)〜05月06日(日)
1日目
09時00分:新穂高
11時00分:白出沢出合
13時00分:滝谷
15時00分:槍平小屋
2日目
05時40分:槍平小屋
06時30分:南岳西尾根 取付
10時00分:デルタ状岩壁
13時50分:マッチ箱
15時30分:南岳小屋
3日目
06時30分:南岳小屋
07時00分:南岳
09時20分:中岳
10時30分:大喰岳
13時00分:槍平小屋
4日目
04時30分:槍平小屋
05時20分:滝谷
07時00分:白出沢
08時30分:新穂高
アクセス
GWの期間の春以降、登山者は深山荘方面の無料駐車場(P5)の利用が必要となります。
5月3日の午前3時半頃に到着した時点では、半分ほど埋まっていました。下山日の5月6日の早朝はガラガラでした。
天気
1日目:快晴!
2日目:快晴!
3日目:快晴!
4日目:曇り
登山道の積雪状況・危険個所
【注事項】
≪南岳西尾根≫
タイトルに「南岳新道」と入れていますが、5月時点では南岳西尾根には雪が多く残っており、本ルート全体の8割で夏道は使用不可となっており、積雪量や雪質も悪く、完全な冬季バリエーションルートとなっています。
これから先、槍からの周回で本ルートを下降路として使う人が一定数居ると思いますが、お勧めできない状況です。
(※実際、山中で複数の方から質問を受けました)
上部の雪稜には既に大きなクラックが走っています。
下部の尾根筋は藪漕ぎが激しくルートも不明瞭で、ルーファイには非常に神経を使います。デルタ岩峰もロープ無しでは降りられません。
尾根の横の沢筋は長時間に渡り不安定な雪質の下降が必要となり、今後融雪が進むと、巨大なクレバスが発生(実際に一昨年遭遇)して非常に危険な状況になります。
特に下山路としての使用の場合は、完全な雪解け後、ルートが整備されてからの通行を強くお勧めします。
新穂高〜右俣林道〜白出沢出合
雪は完全にありません。
白出沢出合〜滝谷
無名沢(2023年7月発生)やチビ谷などの沢筋以外で雪は殆どありません。夜間や早朝の冷え込み時以外はアイゼンは不要です。
尚、滝谷に橋はまだありませんので、自身で渡渉点を探す必要があります。
滝谷~槍平小屋
滝谷の渡渉以降、レリーフから先の樹林帯の登りが地面が非常に硬く氷りついているので、アイゼンの装着が必須となります。
以降、小屋まで基本的に雪道となります。
槍平小屋~南岳西尾根~南岳小屋
≪森林限界以下≫
南岳西尾根の末端に雪は全くなく、北側の斜面からの取り付きが必要。早朝であれば尾根北側の沢筋を上部まで詰める事も可能ではありますが、今後の融雪によりクレバスが出現する可能性も大きく、草付き斜面が露出すると非常に滑りやすい為、通行には注意が必要。
尾根上では少しずつ夏道が見え始めているが、夏道の露出は2割程度で、全体的に藪が濃く非常に難儀する。尾根筋を進むと決めれば進むべき方向事態は明瞭だが、足元も悪く、通行難易度は高い。尚、藪を避けて斜面に出ると、草付急斜面に行き詰る事もある為、ルートファインディングが必須。
【デルタ岩峰】
岩の難易度事態は高くないが、アイゼンを装着し、幕営装備を背負っていると、体感的な難易度は高く感じる。ロープでの確保が望ましいい。尚、下降の際はロープは必須。
≪森林限界以降≫
森林限界を超えると暫くは夏道が続く。冬の難所の一つである「マッチ箱」も完全な夏道で問題なし。
【雪稜】
マッチ箱を過ぎると程なくして、雪稜へと突入するが、全体的に大きなクラックが入っており、通行には注意が必要。
※今後の融雪により状況は大きく異なります。
1日目:新穂高〜右俣林道〜白出沢~滝谷~槍平小屋
新穂高〜右俣林道〜白出沢出合
4時に深山荘方面の無料駐車場に到着し、3時間の仮眠を取り8時に出発。
日が昇ると気温が上がるこの時期は早い出発が望ましいですが、不眠によるコンディションの低下と天秤にかけて睡眠を選択。今回はこれが上手くいきました。
今回は右股林道を快適に進みコースタイム通りに歩く事ができました。3時間の仮眠が良かったのだとは思いますが、雪の有無でこれだけ変わるとは。
そうそう、右股林道には新しい登山者用の休憩所が出来ていましたよ。場所は穂高平小屋へのショートカット道を過ぎて少し進んだ場所です。
白出沢出合~滝谷~槍平小屋
白出沢を渡って直ぐの堤防の上で、小休憩。ここから登山道の始まり。
トウヒに一礼して安全登山の祈願。
夏道が完全に出ている為、快適に進んで行きます。
沢筋以外の雪はありません。夜間や早朝の冷え込み時以外はアイゼンは要らないでしょう。
尚、左の沢は2023年の7月の短時間豪雨により出来上がった、誕生から間もない沢です。
これだけの沢が一瞬にして形成されるとは、自然の力は恐ろしいです。
滝谷に到着。水汲みポイントでもあるので、水は沢山担がなくてもOKです。
この時期はまだ橋は無いので自身で渡渉点を見つける必要があります。
雪解け水で非常に冷たくて美味しいですが、滑ったら数秒で低体温症にまっしぐらですので、落ち着いて渡りましょう。
レリーフの先の樹林帯から雪が出始めますが、ここが厄介。所々氷ついているのでアイゼン必須です。アイゼン無しで通過する場合は、左側の石や土の上を歩きましょう。
ここから先、雪が見え隠れしますが、基本的に夏道通りに進んで行きます。
南岳西尾根の末端付近を通過しますが、この辺りは雪が全くありません。明日は藪との戦いになりそうです。
振り返ると涸沢岳西尾根や滝谷ドームなど穂高の絶景が広がります。
槍平小屋に到着しました。屋根の上の雪も完全に落ちており、1階の入口も出てきています。今年の雪の少なさを物語っています。
既に多くのテントで賑わっています。僕達も適当な場所を整地してテントを設営。
川が出ているので、まずはキンキンに冷えた水で喉の渇きを潤します。
「いやぁ~最高!」
雪から水を作らなくていいってのも、最高!
水造りも雪山登山の醍醐味ではありますが、面倒くさいんですよね。
天気が良すぎて、テントの中は猛烈に暑いですが、明日も早いので早めの就寝としました。
2日目:槍平小屋~南岳西尾根~南岳小屋
槍平小屋〜南岳西尾根取付~デルタ状岩壁
3時半起床、6時出発。
テントを撤収し、槍ヶ岳へ向かう登山者達に背を向けて南沢方向へと登っていきます。
ものの数分で南沢に到着。
沢は渡らずに対岸の様子を見ながら少しだけ高度を上げて、雪が繋がっている所から尾根に取り付きます。
斜度はそれなりにありますが、早朝の冷え込みで雪質も固く、アイゼンも良く効くので問題ありません。
但し、所々深い穴が開いているので警戒が必要です。
尾根まで雪が繋がっている事を期待しましたが、甘くはありませんでした。
雪が切れ始めて、最終的には尾根へ乗越す手間から藪となりました。
草付き急斜面にピッケルとアイゼンを食い込ませて、ドロドロになりがら登っていきます。
一時的な夏道の出現に安堵。ここで小休憩。
先にはデルタ状岩壁が見えています。前回はデルタ状岸壁を巻いてしまったので、今回はしっかりと攻略しよう。
目の前の斜面を左から右にトラバース気味に登り、デルタ状岩壁の基部に繋がる尾根に乗ります。
下から見上げているよりも、実際はまぁまぁの斜度があります。
尾根に乗りましたが、ここからが本格的な藪との戦いです。
- 足場の土は崩れやすい。
- アイゼンに枝が引っかかる。
- ホールドとなる木は腐ってるものが多い。
- 顔面に小枝が跳ね返える。
の連続で、滅茶苦茶疲れます。
薮の猛攻が凄まじく、さっき、見えていたはずのデルタ状岸壁になかなか到着しません。
藪をかき分け、やっとの事でデルタ状岩壁の基部に到着しました。
下から見上げるとホールドやスタンスはそれなりにありそうで、岩場事態の難易度はそれほど高くなさそうですが、幕営装備の入った重たいザックを背負っているので、安全の為にロープを出して確保します。
因みに岩場の所々に古いFIXロープがありますが、明らかに古くでボロボロでいつ千切れるか分からないので使用しない方がよさそうです。
足元も悪く、浮石も多いので慎重に登ります。
岩壁を登り切ったところでピッチを切り、セカンドを引き合げました。
デルタ状岩壁~南岳小屋
そこからもう暫く藪を漕げば、森林限界を突破し、藪の猛攻から解放されます。
ここまで来るのに6時間もかかってしまいました。体力の問題もあるかもしれませんが、それだけじゃない気もします。
夏道に合流し、整備された登山道の有難さを身に染みて実感します。
絶景を見ながら暫しの休憩。
頑張って良かった。
所々、雪が付いてはいますが、暫くは雪が無い区間が多い為、サクサク進みます。
マッチ箱を通過。
雪が積もっている時はここが難所の一つとなるようです。
夏道の梯子で下る所に到着しました。
さあ、ここから雪稜となりますが、先にある岩峰は雪が完全に無く、直登は厳しそうです。
とはいえ、雪面にもクラックが走っており、どちらも危険が伴いそう。
今回はリスクを承知の上でトラバースする事にする。
梯子を下りてトラバースを開始。
岩峰のトラバースを終えたら、速やかに雪稜の上部に復帰しリッジを通過しました。
登ってきた西尾根を振り返って。残雪期の恩恵と特有の厄介さの両方があり、それなりにキツかったです。
無事に危険箇所を超えることが出来て、一安心。
あとは緩めの雪稜を登れば南岳小屋だが、この後ちょっとが長い。
まだ着かない。
結局40分程登って、やっとこさ南岳小屋に到着しました。
笠ヶ岳~中崎尾根、双六方面の絶景が一望できます。
小屋の脇にテントを設営しようしたところで、避難小屋から出てこられたご夫婦から、焼きたての厚地りハムのお裾分けを頂きました。
疲れ切った身体に、肉の旨味が染みわたって、最高に美味しかった。「ありがとうございます。」
テントを立て休憩したら、展望台から大キレットを眺めます。
まだ数年かかりそうですが、いつか残雪期にあそこを超えてみたいです。
笠ヶ岳の遥か彼方に夕日が沈み、1日が終わる。
明日も良い天気になりそうです。おやすみなさい。
3日目:南岳小屋~南岳~中岳~大喰岳~槍平小屋
南岳小屋~南岳~中岳~大喰岳
4時起床、6時出発のつもりでしたが、どうにもお腹の調子が悪い。
避難小屋のトイレに籠ること30分。出発が遅れてしまいました。
大キレットを超えて北穂へ向かう登山者達が数組見送りました。(背中を見ていただけ)
さて、本日は南岳への登りからスタート。
ここから先、雪道と夏道が交互に合われるので、アイゼンの脱着を小まめに行うか、ずっと履きっぱなしかのどちらかにしようか迷い所です。
南岳~槍ヶ岳までの主稜線の残雪には、至る所に大きなクラックが走っています。
南岳。
昨日、登ってきた西尾根。
残雪部のトラバースはアイゼン必須です。
雪庇やクラックの崩壊などが起こっており、付近を通行する際は既存のトレースを信用することなく、注意が必要です。
夏道と雪道が交互に現れます。
中岳が見えて来ました。
中岳への登り。結構長くて疲れます。
中岳。
中岳からの下り。最初の梯子まで残雪があり、夏道が使えないので、少し注意が必要です。
大喰岳から槍ヶ岳を望む。南岳からここまで結構遠く感じます。
大喰岳から飛騨乗越へ。
飛騨乗越~槍平小屋
飛騨沢を下ります。
気温が上がってきて、雪面が適度に緩んで下山には楽ですが、太陽の照り具合が凄まじく体力を奪われます。
黙々と下る。
宝の木まで降りてきました。飛騨乗越からここまで30分くらいでした。冬は早い。
更に1時間程で槍平に到着です。
時刻は13時。
この日の内に下山出来ますが、疲れ果てたのと、このまま下りても深夜のドライブが待っているので、もう一泊していく事にします。
(※食料と登山届は3泊4日で提出済み。)
太陽が出ている間は凄まじい暑さでしたが、太陽が中崎尾根に隠れた途端、急激に気温が下がりました。
4日目:槍平小屋~新穂高
槍平小屋~新穂高
2時起床、4時30分出発。
遅い時間になるほど雨が降りやすい予報なので、暗い内から下山を開始しました。
南沢~滝谷の間の沢筋に入山日にはなかった落石痕がありました。
範囲も広く大きな石もありました。今後は雪崩もですが、融雪による落石にも十分な注意が必要です。
滝谷から1時間で白出沢出合に到着。今回も無事に帰ってくる事が出来ました。
数年振りに穂高平小屋からのショートカット道を使用しました。
よく整備されており、歩きやすい登山道になっています。が、熊には十分に注意しましょう。以前、ショートカット道の付近で熊に遭遇しました...。
新穂高のPに帰還。
お疲れ様でした。
感想&まとめ
ゴールデンウイークは毎年の雪山シーズンの締め括りの時期。
どこに行こうか迷う。
剱岳の早月尾根は昨年登ったし、五竜岳も気になるけど、今年は雪が少なそう...。
であれば、2年前のやり残しであった「南岳西尾根」に行こうということになりました。
▼1日目
珍しく会社を定時に出て、比較的好いている電車で帰宅。
自宅を9時過ぎに出て、新穂高へと車を走らせる。
新穂高の無料駐車場で仮眠を取って8時に出発。
右俣林道から見上げる涸沢岳西尾根には恐ろしく雪がなく、嫌な予感。
「まぁ、なんとかなるだろう」と腹を括って、のんびりいく。
ワカン以外は全て冬季装備で来たが、暑い。
アプローチは半袖でも良かったくらいだ。
だいたいコースタイムで槍平に到着して、適当な場所にテントを設営。
この時期はそこまで気にしなくても良いかもしれないが、槍平も過去に雪崩による痛ましい事故が起こっているので、設営場所には注意が必要。
例年よりも雪解けが進む槍平の小川で水を汲んで、早めの夕食。
最近、沢の水や雪から作った水でお腹を壊しにくくなってきた。
▼2日目
3時、日帰り組が通り過ぎる足をを聞きながら朝食を準備を進める。
槍平に向かう登山者達に背を向けて、南沢へと向かう。
「こんな時期にこのルートを歩く人なんていないよなぁ~」と話していたら、
意外といるもので、2組いました。
両方とも自分達とはルート取りが違いましたが、各々が山登りを楽しんでいました。
藪の猛攻に、最初こそ「自分達だけでルート進んで最高」と意気揚々としていましたが、
次第に無口になり、最後の方は正直イライラしていました。
しかし、森林限界を超えて視界が広がった時の感激は今でも鮮明に覚えています。
▼3日目
避難小屋には数組の登山者がいたようで、大キレットに向かう登山者も何組かおられました。
主稜線も油断は禁物とは言え、大きな難所もなく快適な稜線歩きとなるかと思いきや、
寝坊と体調不良で出発が遅れた事もあり、凄まじい太陽光の下での行動を余儀なくされて、疲労困憊な1日になりました。
それでも13時には槍平に到着。
せっかくのGW。急いで山を下りるのも勿体ない。
槍平でテントを立て直して、もう一泊。
今回は槍の穂先はパスしましたが、せめて槍ヶ岳山荘でコーラを買ってくるべきだったかと少し後悔しましたが、最初の一杯は下山後の楽しみに取っておいて、キンキンに冷えた小川の水で喉の渇きを潤す。
▼4日目
雨が降らない内に下山して、混雑するまでに温泉と食事を取りたいので、2時起床の4時半出発。
早朝は気温が引きく歩きやすい。
結構快適にあるいて9時には新穂高に下山。
▼下山後
装備品を片付けたら、「ひがくの湯と登山者食堂」へ。
支配人の方にご挨拶。ワンちゃんから癒やしを貰って、飛騨牛と特盛の白米で栄養補給。
シャワーを浴びて4日間の汚れを落として、温泉に使っていると、アドレナリンが引いていくのと同時にほんの少しの寂しさが込み上げてくる。
去年のGWは残雪の劔岳に早月尾根から登った。
今年の2月には涸沢岳西尾根から奥穂高岳に登った。
出会いと別れ。この1年、山界隈でも色々な事があった。
これに関してまたいつか。
明日から平日。また平日の仕事漬けの日々が戻って来る。
日常あっての山登りだが、暫くは物さみしい日が続きそうだ。