2024年2月24日、遂に念願の「厳冬期 奥穂高岳」へと登頂しました。
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【山行記録】厳冬期奥穂高岳(涸沢岳西尾根)/ 2024年2月23日〜25日
ルート&タイム
2024年02月23日(金)〜02月25日(日)
1日目:新穂高〜右俣林道〜涸沢岳西尾根〜2200m地点テント適地
2日目:2200m地点テント適地〜蒲田富士〜涸沢岳〜奥穂高岳(往復)
3日目:2200m地点テント適地〜右俣林道〜新穂高
アクセス
冬季期間中は「新穂高登山センター」前の県営駐車場(P2)が登山者向けに無料開放されてます。
※満車の場合は、深山荘前の無料駐車場(P5)を利用しましょう。(P5は除雪されていない場合は、使用不可となります。)
※冬季は岐阜市内より新穂高へと至る道は、積雪・凍結があり、ノーマルタイヤでの通行は不可能。尚、夜間においては除雪がされていない場合もありますので、走行に際しては注意が必要です。
天気
1日目:雪〜曇り
2日目:晴れ
3日目:雪
登山道の積雪状況・危険個所
【注事項】
このルートは冬季バリエーションルートであり、一般登山道ではありません。
多くの経験とスキルを必要とする難易度の高いルートであり、死亡事故の多発する危険なルートでもあります。
初心者が登れるコースではありません。安易な入山は絶対にやめましょう。
新穂高〜右俣林道〜白出沢出合
林道の開始から積雪あり。最初の九十九折までは工事車両の為に除雪がされているが、それ以降は除雪なしとなる。トレースもあり、雪質も安定している為、比較的歩きやすい。
2月下旬であるが、所々雪解け水によりアスファルトが露出している所があり、暖冬である事を再認識する。
白出沢出合〜テント適地(2360m地点)
涸沢岳西尾根の雪質は固く締まった雪で、比較的快適に高度を上げる事が出来たが、これは直前の天候と先行者のトレースに恵まれた場合の話である。
FIX箇所もその他の箇所と変わらない状況であったが、今後融雪が進みその後気温が下がると一部氷壁と化す場合があるので、要注意。
今年は暖冬の影響もあり樹林帯内の積雪量は少なく、通称2400mのテント適地以下の幕営可能場所は限られている印象。2400mまで上がれない場合は、早めの判断が必要となるかもしれない。
テント適地(2360m地点)〜涸沢岳
【蒲田富士 周辺】樹林帯を超えた先の蒲田富士直FIX箇所も積雪は安定しており、雪壁部を問題なく通行可能。
その後の蒲田富士の両雪庇帯も、数回の経験でしかないが、これまでにない安定した雪質及び雪庇の形状も分かりやすく、蒲田富士の末端(F沢のコル側)のリッジもそれほど細いリッジにはなっていなかった。
【主稜線~涸沢岳】主稜線へと上がると、雪質は非常に固くなり、鋭く研いだアイゼンでもしっかりと蹴り込なないと容易に弾かれれる場面があった。また、定期的にダガーポジションでのトラバースも必要となり、油断の出来ない状況が涸沢岳の山頂まで続く。万が一スリップした場合、滑落停止は不可能と思った方が良い。
涸沢岳〜奥穂高岳
【穂高岳山荘】穂高岳山荘の天井は埋まっており、冬季小屋の入り口も半分埋まっていたが、冬季小屋の場所は識別可能。
【奥穂高岳】奥穂の岸壁は真っ白な雪と氷に覆われており、非常に難易度の高い状態となっている。岩壁の氷は気温の変化で溶ける事もあるが、同様のコンデションであった場合、一定レベル以上のアイゼン・ピッケルワークが必須。
梯子の表面も氷で覆われており、非常に神経を使い、下りでは懸垂下降で下りた。
その後の雪壁帯は雪質は非常に硬く、ダブルアックスが必須。しかし、アイゼンとピッケルワークを確実に聞かせれば安定した登りが可能なので柔雪よりは安心感がある。ここは下部に滑落防止ネットがある場所だが、積雪により殆どが埋もれており、滑落時はバウンドありネットは飛び越えてしますだろう。
雪壁以降もトラバースが数ヶ所あるので、山頂まで決して気は抜けない。
※冬季の積雪状況や雪面の状況は日により大きく異なります。最新の気象情報に注意して下さい。
動画はこちら
1日目:新穂高〜右俣林道〜涸沢岳西尾根〜2200m地点テント適地
新穂高〜右俣林道〜白出沢出合
5時過ぎに新穂高登山センター前の無料駐車場に到着。2時間の仮眠後、1時間で準備を済ませて、8時00分新穂高登山センター前の駐車場を出発します。
3連休という事もあり多くの登山者が出発の準備をしていました。
小雪が舞う中、右俣林道を進んで行きます。九十九折の箇所までは工事車両の為に除雪されていますが、そこから先は登山者のトレースのみとなりました。
テント泊装備の重荷で歩きにくいので、トレースはありますがワカンを装着します。
9時30分、新穂高から1時間30分程で穂高平小屋に到着。小屋の中の方が寒いので外の軒下で小休憩。
いやぁ~苦しい。右股林道はこれまで何度も歩いていますが、楽に感じた事は一度もありません。
11時00分、白出沢に到着。結局、新穂高から3時間もかかってしまいました。
白出沢を渡れば、涸沢岳西尾根の末端です。取付のトウヒの前で一礼。「明後日、絶対に生きて帰ってきます」
涸沢岳西尾根〜2200m地点テント適地
西尾根の下部は一部笹が見えていますが、雪質は固くしっかりとしたトレースもあるので、ワカンは途中にデポして行く事にします。
途中途中に先行者のワカンがデポしてあり、後続から来たパーティーを含めると、この日は6パーティー程入山しているようでした。
傾斜が増して来ました。ひたすら急登が続くので暑いですが、小雪が舞っているのでアウターを脱ぐ事が出来ず辛い...。
尚、このルートの特徴として樹林帯には途轍もない数の赤テープがあるので、道迷いの心配はありません。
FIXロープの箇所。雪質、トレースに恵まれて特に問題なく通過。
体幹的には2360mのテント適地までは、ここで半分といった感じです。
時刻は14時30分。疲労が溜まっている事と、既に6パーティーが先行しているので、テント場が無くなっていても困るので、2200m地点でこの日の行動を打ち切って幕営します。
樹林帯の積雪量としては例年よりも少ない印象で、2200mより下部での幕営可能な場所は少なかったです。
尚、ここから2400mのテント適地までの間で幕営可能な場所はギリギリ2箇所あるかどうかでした。入山パーティーが明らかに多い場合は、早めの判断が必要かもしれません。
時間優先で整地が適当だったので、雪面に大きなコブが出来てしまいましたが、疲れもあって就寝には特に影響はありません。
水造りと夕食を済ませて18時には就寝。
2日目:2200m地点〜涸沢岳〜奥穂高岳(往復)
2200m地点〜蒲田富士
2時起床、4時出発。テント適地よりも200m程下で幕営している為、早目の出発。
1時間程で2360m地点のテント適地に到着。丁度、他の登山者も出発の準備をされておられました。
2360m地点から1時間で森林限界を超えて、蒲田富士の取付に到着。
下降点を見失わない為に、ここに赤旗を1本設置。
蒲田富士直下のFIXロープ箇所。
トレースありで、ロープも出ています。
斜度はそれなりにあるので、慎重に進みます。
尚、雪質が不安定な際は雪崩に注意が必要です。
少しずつ日が昇って来ました。
FIXロープは補助程度で、荷重を掛けるなどの過度の使用は厳禁です。
西穂高方面。穂高の東側には朝日が当たり始めました。
笠ヶ岳や黒部源流域にも朝日が当たり始めましたが、今登っている涸沢岳西尾は西側に面する為、太陽の光が当たるのはまだもう暫く後になります。
蒲田富士〜涸沢岳
FIXロープを超えて、少し歩けば...
いよいよ、蒲田富士の雪庇帯に突入します。
トレースがありますが過信することなく、慎重に歩みを進めて行きます。
今回は雪庇の形状が分かりやすかったですが、直近の気象条件により、雪庇の形状や雪質などは大きく異なります。
蒲田富士ラストのナイフリッジも今回はそれほど細くなく、問題なく通過する事が出来ました。
F沢のコルから涸沢岳の方向を望む。
尚、F沢のコルには小規模ながらもクレバスがありますので、注意しましょう。
F沢のコルから岩峰を乗っ越して、主稜線へと続くルンゼと岩稜帯の方向へと進みます。
ルンゼと岩稜帯の両方にトレースがありました。
8割の登山者がルンゼを登って行ったようです。
雪質的にもルンゼを詰めても問題なさそうでしたが、私達は岩稜帯を選びました。
ルンゼの下部から岩稜帯への取り付いていきます。
斜度はそれなりにありますが、落ち着いて登れば問題ありません。
尚、下降に関してもクライムダウンが出来なくもありませんが、メンバーの力量や疲労具合によってはロープを出しても良いと思います。
岩稜帯の最初は急な岩場の登りとなり、古いFIXロープもあります、こちらも落ち着いて登れば大きな問題はありません。
登りの進行方向左側は鋭く切れ落ちているので、近寄り過ぎないように注意しましょう。
高度を上げていくと、少しづつ雪面が固くなり始め、場所によっては非常に固く硬化しており、ピッケルとアイゼンを確実に効かせないと弾かれる場所がありました。
左を向けば滝谷の勇姿を拝むことが出来ます。
アップで。
更に先には槍ヶ岳も見えています。
偽ピークは3回ほどあるので、騙されてもめげずに前に進み続けましょう。
尚、この辺りはスリップしたら絶対に止まれませんので、本当に一歩一歩確実に歩いて行きましょう。
10時30分、涸沢岳の山頂に立ちました。
凄いエビの尻尾です。
涸沢岳の山頂から奥穂高岳を望む。
奥穂を目指すには、時間的にギリギリといった所。撤退時刻を決めた上で、先に進みます。
涸沢岳〜奥穂高岳
涸沢岳から10分ほど降って、白出のコルにおります。
雪に埋もれた穂高岳山荘の屋根の上で小休憩。お湯と行動食を口に突っ込みます。
出だしの岩場は下山組とのスライドでしばしの順番待ち。
写真では大した事ないように見えますが、梯子が全て氷で覆われており、結構厄介な状態となっています。
こちらも写真では分かりにくいですが、断続的に上部から粉雪が舞い落ちてきます。
3回の梯子の先は、雪壁が待ち構えています。ダブルアックスで確実に登っていきます。
急斜面の登りトラバースを終えて。
背後には涸沢岳、北穂高岳、南岳、槍ヶ岳と名だたる3,000m峰が連なっていて壮観です。
雪壁の先も奥穂の山頂までは際どいトラバースが続きます。
この当たりもスリップしたら終わりです。絶対に止まりません。
時間が押していますが、焦りは禁物。一挙一動に最新の注意を払いながら進んでいきます。
山頂の祠が見えてきました。
奥穂高岳
12時30分、奥穂高岳の山頂に到着。
互いの検討を称え合います。お互い良く頑張りました。
祠は雪と氷に覆われており、夏の面影はありません。
石板を見ながら360度のパノラマを楽しみましょう。
まずはお決まり、ジャンダルムから。
雪を纏ったジャンダルムは格別です。ここまで来た者だけが見ることの出来る景色です。
猛者達は西穂からあれを超えてくるのか
遠くの槍の真っ白です。今日の穂先は奥穂と同じく凄まじく氷化していることでしょう。
さて、そろそろ下山を開始します。山頂にいた時間は僅か3分程でした。
当然ですが、下りも際どいトラバースを超えて行かなければいけません。
山荘手前の雪壁を下降していきます。
前後に登山者がいる場合は、万が一の事を考慮して互いに直線上に入らないように注意しなければいけません。
危険箇所は迷わずにロープを出します。
白出のコル(穂高岳山荘)から涸沢岳への登り返しが地味に辛かったです。
それもそのはず、穂高岳山荘のある白出のコルが標高2996m、涸沢岳が標高3110mなので、標高差は114mもあります。
時刻が進むにつれて、標高の低い所rからガスが湧き上がってきました。あのガスがあれ以上上がってきて、蒲田富士を包み込むと非常に厄介な事になります。
岩稜線の基部まで降りてきました。
岩稜帯基部の下降もロープを出しました。
夕刻が迫ります。
※この時刻まで稜線上にいてはいけません。これは今回の山行での大いに反省すべきポイントです。
夕日の中、蒲田富士を超えて行きます。
※この時刻まで稜線上にいてはいけません。これは今回の山行での大いに反省すべきポイントです。
安全に、迅速に下降して行きます。
なんとかギリギリ、夕日が落ち切るまでに森林限界への下降点まで降りてくる事ができました。
テント場まではヘッドライトで下山。
樹林帯も危険箇所が多数あるので、油断は禁物です。
3日目:2260m地点テント適地〜新穂高
テント場〜新穂高
3日目、テントを叩くの雪の音で目を覚ました。
予想通り朝から雪で、2200m地点でも数センチの積雪となっていました。
2時間で白出沢出合に到着。
トウヒに無事の下山の報告と、感謝の一礼。
アイゼンを外してワカンに履き替えて、長い右俣林道で消化試合。
長い林道も反省会をしながら、1時間半ほどで新穂高へと帰還しました。
穂高平小屋からゲートを超えて2度の葛折を終えれば、新穂高ロープウェイのPが現れます。
「生きて帰ってきた。3日間ありがとう」
握手とハグで山行を締めくくりました。
感想&まとめ
▼1日目
仕事を切り上げて自宅を出る頃には22時過ぎ。山の前の日くらい早く帰りたい...。6時間のドライブを経て新穂高へ。
2時間だけ仮眠をして出発。
互いに無傷の下山を約束して、Pのゲートを越える。
忌々しき右俣林道から始まるが、毎回苦しい。寝不足もあるだろうが、あれは異常。
ひぃひぃ言いながら白出沢に到着。
トウヒに一礼して西尾根を登る。
先行者のトレースに助けられて快適に高度を上げていく。
15時過ぎに2400mのテント適地の少し下を整地して幕営。
▼2日目
夜明けと同時に森林限界を越える。下降地点に赤旗を1本。
FIXロープ箇所は雪質も安定しており問題なくクリア。
その先はいよいよ蒲田富士の両雪庇帯。
過去数回の比較でしかないが、今回は雪庇の形状も分かりやすく、雪質、トレース共に恵まれて無事に通過する事が出来た。
F沢のコルへの下降後は、主稜線へと登り上げる。ルンゼと岩稜のどちらにもトレースがあったが、今回は岩稜を選択。
雪面は直前の寒暖差の影響で硬く凍りついており、一瞬たりとも気が抜けない。一歩一歩確実に蹴り込みながら歩いていく。
偽ピークに3回程騙されたら、いよいよ涸沢岳の山頂へ。
涸沢岳からは真っ白な奥穂が聳えていた。
「あれ、登れるのか?」
一瞬気後れしている自分がいたが、ここまで来れる機会はなかなか無い。基部まで行って無理だと感じたら引き返そう。
雪に埋もれた穂高岳山荘の上で小休憩。
行動食とお湯を口に突っ込む。
取り付ていてみて、山頂が真っ白だった理由を理解した。
岩壁は全て雪と氷で覆われていた。
梯子までのひと登りが少し嫌らしい。
梯子は下りパーティーの順番待ちで暫し待機。終始上部からは細かな雪が降り注ぐが、幸いそこまで寒くは無い。
凍りついた梯子を慎重に登った後は、雪壁をダブルアックスで攀じ登る。
当然アイゼンは前爪しか刺さららず、ピッケルも確実に打ち込まないと弾かれる。
嫌らしいトラバースを数回超えたら、山頂の祠が見えて来る。
山頂についた時、達成感、嬉しさ、悲しみ、色々な感情が一気に押し寄せてきて涙が溢れた。
とは言え、ここは3190mの稜線、安全圏は遥か下。
生きて帰る為には、登ってきた危険地帯をいくつも超えていかなければならない。感情に浸っている時間はない。
手を合わせて写真を撮ったら直ぐに下山を開始した。
あれ程夢見た地に居たのは、僅か3分だった。
厳冬期の奥穂高岳は、本格的に志してから4年くらいだろうか。
1回目は、実力不足で敗退。
2回目は、蒲田富士から先のフルラッセルで時間切れ。
そして、今回遂に奥穂高の山頂に立つ事が出来た。
天気、雪質、トレース全てが味方して達成する事が出来た。
トレースをつけて下さった先行パーティの皆様。
途中温かい励ましの言葉を掛けて下さった2人パーティーの方々に、この場を借りてお礼申し上げます。